第75話 フラグ立つ

 狩りを終えた俺は、温泉に近い森の出口まで戻って来ていた。

それを女子に知らせるために、示し合わせていた合図を送る。

入浴中、しかも壁がまだ完成していない現状では、距離と角度によっては見えてしまって危険なのだ。


 まあ、ラキのせいで見ちゃったんだけどね。

ラキは身長が20cmぐらいだから、遠目だと女子の身体の肌色が遠くに見えるだけなのだが、温泉に浸かっている女子のバストショットは見えてしまった。

長時間だったからか半身浴なんてしてるんだぞ。隠せ隠せ!


 さらにパニックになって女子に接近したラキは、立っていた女子の脚のアップを見せていたのだが、あいつ助けを求めて女子を見上げやがったんだよな……。

ラキが助けを求める子、胸が大きくて顔が見えなかったけど、多分あの子だ。

誰とはあえて言わないけど、ありがとうございました。

女子だけだと思って油断しすぎです。タオルを、タオルを使ってください!


「ホー、ホー」


 温泉のある岩場を望む森の中からホーホーが飛んで行き、更衣室の上に止まって鳴き声をあげる。

これにより女子たちは温泉から上がり最低でも更衣室に戻る。はずだ。

入浴時間は2~3時間あっただろうか、ずっと入っているわけではないだろうが、時間がありすぎても湯冷めしてしまうので、休憩を入れつつ何度も楽しんでいたのだろう。

なぜかラキが視覚共有した時は、全員が入浴中だったしな!

ラッキースケベ、恐ろしいやつ。


「もういーよ」


 女子から接近OKの合図が来た。

これでやっと温泉に近付ける。

だが、俺の罪悪感は激しいものがあった。

あの子の顔を見られるだろうか?

責任取って、け、結婚するべきか?


 などとアホな妄想をしていると、更衣室の目の前まで到着した。


「あ、転校生くん、待たせちゃったかな?」


「い、いや、そんなに待ってないぞ」


 いきなりあの子だなんて、どうしたら良いんだ。

まずい、知らず知らずに胸に目が行ってしまう。


「そう、良かった。

あれ? ちょっと汚れてるよ?

温泉に入ってきたら?」


「そ、そうだね」


 俺は誤魔化すように岩場の影に行くとブレザーの制服を脱いで温泉に向かった。


「うわー、転校生くん、意外と筋肉あるー」


「意外だったわー」


「やめなよ、覗きはダメって言ったのこっちだよ!」


「いいから、いいから」


「ぐふふ、あの尻は良い」


 俺は女子にがっつり覗かれていた。

しっかり聞こえていますが?

腐ーちゃん、俺を薄い本の題材には使わないでね。

だが、これはこれで良かったかも。

お相子となることで少し罪悪感が薄れた。


 それにしてもクモクモがタオルを作ってくれていて助かった。

俺の聖域だけはそのタオルが守ってくれていた。

いや、あの子との急な接近で膨張気味だが……。


 俺はそれを隠すように両手でお湯を掬ってはかけ湯をし、身体を洗ってから湯舟へと入った。

乳白色の温泉は入ってしまえば身体を隠せる。

俺は股間を隠せたことで、やっと落ち着くことが出来た。

もう大きくなっても見えやしないからな!


「なるほど、桶とか洗い場の椅子とか石鹸とか必要なものが沢山あるな」


 使ってみて結構な改善点が目についた。

木工は誰も出来ないか……。土器の桶というわけにもいかないしどうしようか。


「転校生くん、背中流してあげる」


 湯気の中から声がした。

俺が湯舟から見上げると、そこにはすべすべの肌色が2本あった。

誰かの生足だ。だが、膝から上は湯気で見えない。

こら湯気、何仕事してるんだ!

誰かわからないだろうが!


 尚も接近する女子がミニスカのセーラー服だということがわかった。

良かった、服を着ていた。

もし服が濡れるからと下着にタオル1枚で来られたらどうしようかと思った。

だが、その様子はどこのAVだよというシチュエーションだった。


「ひゅーひゅー、がんばれマドンナちゃん」


 は? マドンナなの?

湯気が晴れるとそこにはタオルを握りしめたマドンナが立っていた。


「温泉に更衣室を作ってくれたのと、いつでも温泉に連れて来てくれるってことのお礼」


 マドンナが顔を赤く染めて恥じらいながらそう言う。

あれー? 俺断ったよね? 突き放したよね?

なんで、こんな態度になっているんですか?

それに、いつでも連れて来るって言ったか?


 見詰め合う攻防がしばらく続いて、のぼせ始めた俺は折れた。


「お願いします」


 マナー違反だが、【クリーン】をかけたタオルを湯舟に浸けて股間を隠す。

その状態で俺は湯舟から上がり、マドンナに背を向けて腰を下ろし体育座りをした。

体育座りならば、ふとももで挟んで股間が隠せるのだ。


「石鹸がないから擦るだけだけど、ごめんね」


 マドンナがそう言うと、タオルが背中に当てられた。

人間、身体が柔らかい人でも、なかなか背中の中心部には手が届かない。

なので他人が背中を流すという行為が必要となる。

助かったことは助かったけど、このシチュエーションは恥ずかしすぎる。


 その後、石鹸も無いことから、思わず滑ってラッキースケベということもなく、淡々と背中が擦られるだけだった。

女子たちの揶揄う声がするが、そこには恋する乙女を応援するかのような台詞が混ざっていた。


「あれー?」


 おかしい、思っていた展開と違う。

マドンナの手がお湯を掬い俺の背中にかけてくれる。

その時!


「きゃっ!」


 マドンナが足を滑らせてつんのめる。

転びそうになったマドンナの両手は思わず目の前にあるものを掴もうと伸びる。

ふんわりと花のような香りがしたかと思うと、マドンナが俺の背中に抱き着いていた。


「ご、ごめんなさい!」


 マドンナは顔を赤くして更衣室の方へと走って行ってしまった。

なんだこのフラグは?

想定外すぎてわけがわからないぞ? 

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