第76話 入浴

 マドンナの予想外の行動に、呆気にとられて見送るしかなかったが、俺の頭の中には疑問符しか湧いていなかった。

マドンナが? 女子たちも応援してるって? 断ったはずなのに?

そんなフラグを立てられ、着々と外堀を埋められている感じ。

だが、俺には心に決めた……ちょっと温泉に入らせてください。

あの時の映像が脳裏に浮かんでタオルの下が大変なことになりました。

ほんの数日一緒にいただけでも、同級生女子の裸体は破壊力がある。

あの笑顔、あの声を思い出すだけで勃ってしまう。

もうパブロフの犬状態です。


 異世界だからハーレムOK?

冗談じゃない。俺はクソ親父のようにはならない。

後で、こっちの女性の方が正解でしたなんて身勝手なことには、絶対になるわけにはいかない。

これは告白するべきだろうか?

そんな思考が頭の中でぐるぐる回っていると、至近距離から声がした。


「遅い!」


「湯冷めしちゃうでしょ!」


「ちょっと足湯に入らせて!」


「ちょおま! 近い!」


 覗くなと言っていたくせに、懐疑派が俺の入浴に介入して来た。

バスケ部女子もリーダーを降りたことで一時期落ち込んでいたが、俺に対しては調子を取り戻してきたようだ。

ズケズケとものを言ってくる。

いや、あれか、唯一俺にだけ責任を感じていないということか!


「足湯は俺が出てからにしろよ!」


「えー、それだと転校生くんが逆に湯冷めするから配慮したんじゃないか」


「いや、俺が出にくくなるって方に配慮しろよ」


「あー、お構いなく。勝手に出ちゃって」


「俺が構うんだよ!」


 なぜだ。男子が女子にこれをやったらセクハラで訴えられるぞ?

なんで俺に対してはOKなんだよ!


「だからマナーとして自らも脱げってば」


 腐ーちゃんが前タオル1枚でやって来た。

前タオルとは全裸の胸から前にタオルを1枚垂らした状態だ。

バスタオルではない、普通のタオルだ。

タオルからいろいろはみ出すが、隠すべきところは隠れるという究極の技だ。


「腐ーちゃん、何やってんの!」


「見せてもらったお礼?」


 たしかにがっつり覗いていたけど、逆に俺が困るんだよ!

そして、腐ーちゃんはそのまま湯舟に入った。

乳白色のお湯である意味助かった。


「ほら、皆も恥ずかしがらないで来なよ」


 え? 他の女子も来るの?


「これ以上はだめだ! 俺がのぼせ死ぬ!」


 俺は形振り構わず、股間だけをタオルで死守し、湯舟から飛び出て岩陰に逃げ込んだ。


「「「きゃーーーーーーー、見えたーーーーーーーーー」」」「ぐふふ」


 俺は100%の裸芸人のような感じで女子の目の前を走るしかなかった。


「安心しろ、他の女子は来ないからw」


 腐ーちゃん、恐ろしい子。


 俺は身体の水分を拭うと急いで服を着た。

テントを張ってないか確認して皆の前に出る。


「ごめんねー。これで僕が彼女たちに覗くななんて言わせないから。

でも、僕はいつでも一緒に入ってあげるぞ」


 俺の機嫌が悪いのをサッカー部女子が慰めてくれる。

彼女は覗きはしていないが、謝ってくれた。

だが、彼女は見られても良い派、いや彼女自身は混浴肯定派だ。

男女混合スポーツでは特に気にしないそうだ。

男女差を気にしな過ぎて、ある意味恐ろしい存在だ。


「いつでもウエルカム」


 腐ーちゃんも着替え終わっていた。

腐ーちゃんはもう自由過ぎて困る。


「私も入った方が……」


 こんな二人に触発されてマドンナまで混浴するべきか悩みだした。

いや、しなくて良いですから。

むしろ、なぜフラグ立ててるんですか!

ちょろインじゃないんだから、勘弁してください。


 だが、別の意味で肉体で語り合ったおかげか、少し溝のあった女子メンバーとも絆が生じたような気がした。


 ◇


 拠点に戻ると何かがサッと影に隠れた。

おそらくGKが陰ながら拠点を守ってくれていたのだろう。

拠点には鶏を残していたので、魔物に襲われる危険があったのだ。

見えるところはカブトンが抑止力になってくれていたようだが、陰ながらGKも動いてくれたようだ。


「今日の夕食はホーンラビットの肉です。

三つ編み女子、調理を頼む」


 俺はドキドキしながら彼女にホーンラビットを渡した。

三つ編み女子はそのギフトスキルでホーンラビットをあっさり解体し、調理を進める。

竈は拠点前に常設してある。そこに土器の鍋をかけ、水トカゲに水を出してもらう。

薪への着火は火トカゲだ。

そんな三つ編み女子の家庭的な姿を眺めながら、俺はこの子と結婚したいと思ってしまった。

この異世界、もう帰れないならば、彼女こそがパートナーになって欲しい。

だが、責任を取る必要があるというのはいつ打ち明けようか。

それで嫌われるかもしれないと思うと黙っていた方が良いのかとも思ってしまう。

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