第63話 運動部系揉める
「なーに? 揉め事?」
腐ーちゃんが俺に訊ねて来る。
いや、俺も状況は把握してないんだけど。
「すまない。いま俺たちは、サッカー部女子の治療をしていたところで良くわからないんだ」
ここには治療中のサッカー部女子、治療をしたマドンナ、怪我をしたメガネ女子と三つ編み女子、そして見守る裁縫女子が集まっていた。
そこに腐ーちゃんを含めれば、事情を知るのは揉めている当事者の2人しかいない。
「ふーん」
俺が苦笑いで返し、他の女子たちも状況を知らないと察した腐ーちゃんが、やれやれという感じで2人の元へと様子を伺いに行った。
俺も様子を見て仲裁したいところだが、そこは女子ゾーンという男子禁制エリアだったため、スルーせざるを得なかった。
まあ、助けてと呼ばれたならば仲裁に行くこともやぶさかではない。
『行ってくる』
ラキが女子ゾーンに突入した。
これでラキとの視覚共有で様子を見ることが出来る。
念話を併用すれば会話も聞こえる。
もしも修羅場化したら止めに行こう。
だが、女子の揉め事は女子の中で解決してほしいところだ。
『ちょっと何やってんのよ?』
腐ーちゃんの声がする。
『こいつが因縁付けて来ただけだよ』
これはバスケ部女子か。
『はぁ? 4人死ぬところだったのに? 因縁で済ます気?』
こっちはバレー部女子だな。
『だから、全員無事に帰って来たんでしょ? 何が悪いのよ!』
『それは転校生くんと眷属の蜘蛛が助けに来てくれたからよ。
だいたいメガネちゃんとサッカーちゃんが遅れるの判ってて放置したでしょ?』
『私がそんなことするわけないじゃない!』
『うそつけ。自分だけ回復役のマドンナちゃんと行動を共にして、どうして他の子たちの安否も確認しなかったのよ!
自分だけ助かれば良いって思ってたんでしょ!』
うわー、それ言っちゃうんだ。
『バレーちゃん、言い過ぎ』
『っ!……そんなつもりは無かった』
『だったら、なぜ様子も見に来なかったのよ。
転校生くんが来なかったらサッカーちゃん死んでたよ!』
『え?』
バスケ部女子もそれは知らなかったようだ。
『え、そうだったの?』
腐ーちゃんも、その事実に驚愕する。
『女子最強が呆れるよ。
私が戻って最後の1匹を倒して、転校生くんが回復魔法を使ってくれたから助かったんだ!
でも、それってバスケちゃんとマドンナちゃんで出来たことだよね?』
「何よ偉そうに。お荷物だったのを助けてレベル上げまでしてあげたのに!」
「はぁ? それとこれとは関係ないじゃない!
今はバスケちゃんが仲間を殺しそうになった話をしているんだよ?」
ヒートアップしたバレー部女子が言ってはいけない単語を口にしてしまった。
それにはバスケ部女子も黙ってしまった。
まさか、そこまで状況が悪かったとは自覚していなかったのだろう。
『サッカーちゃんが必死に戦ってメガネちゃんを守ってた気持ちわかる?
誰かが助けに来てくれるって信じてたんだよ?
なのに、どうして女子最強のあんたが来ないのよ!
どうして回復役のマドンナちゃんを余所に連れて行っちゃうのよ!』
『ごめん……』
バスケ部女子が小さく謝る。
『私も戻ったんだけど、皆が何処にいるかわからなかった。
そんなことになっていたなんて知らなかった。ごめん』
腐ーちゃんも助けに行けなかったことを後悔しているようだ。
『腐ーちゃんは悪くないよ。
でも、バスケちゃんは、最後に戻って来てくれても良かったよね?
なのに、何で拠点で寛いでるのよ!』
うーん、ここで俺が出て行っても仲裁するのは無理だぞ。
『だから、ごめんって! うわーーーーん』
バスケ部女子が突然走り出すと、泣きながら拠点を飛び出して行ってしまった。
あちゃー、やちゃったか。追い込み過ぎて逃げ場を完全に塞いだらダメだって。
これで出て行かれて死にでもされたら、それこそ雰囲気が悪化したままになって迷惑なんですけど?
「バスケちゃん!」
腐ーちゃんがバスケ部女子を追いかけて行く。
二重遭難は勘弁してほしいところだが、腐ーちゃんの実力なら大丈夫か。
拠点の中は狭い。口喧嘩の最後の方は声が大きくなり、女子の皆にも聞こえていた。
俺も念話で盗聴する必要がないぐらいだったのだ。
「転校生くん、バスケちゃんも必死だったんだよ。
あの時は、森にバラバラに逃げるのが正解だって誰もが思ってたんだよ?
間違ってたけど……」
三つ編み女子がぽつりと言うと俺の顔を見つめる。
その目はまるで、助けてあげてと言っているようだ。
三つ編み女子も巨大カマキリ2匹に襲われて絶対絶命だった。
俺が見つけなければ或いは……。
それでもバスケ部女子を庇おうというのだ、その気持ちを汲むしかないな。
「俺も探してくる。
バレー部女子、気持ちはわかるが、言い過ぎだ。
あれだとバスケ部女子の居場所が無くなってしまう。
落としどころは必要だと思うぞ。
例えば、女子リーダーから降りてもらうとかな」
「ごめん、面倒をかけたね」
まさかバレー部女子もバスケ部女子が出て行くとは思わなかったのだろう。
バレー部女子も少し反省しているようだ。
「ラキ、皆を頼むぞ。
クモクモ、来てくれ。面倒なら蜘蛛糸で縛り上げて連れ帰る」
俺は、バスケ部女子を連れ戻しに拠点を飛び出して腐ーちゃんの後を追った。
バスケ部女子はさすが女子最強の身体能力、既に見えなくなっていた。
その後を追う腐ーちゃんの背中だけが頼りだ。
「そういや男子も帰ってないじゃないか……」
嫌な予感がしまくっている。
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