第64話 迷子

 俺の目の前をクモクモが空中機動して行った。

先行してバスケ部女子を見つけてくれるつもりなのだろう。

それにしても、バスケ部女子は俺たちが未踏破の方面へと向かっているようだ。

いや、今日男子が向かった先が判らないから未踏破ではないのかもしれない。

だが、男子が向かっていたとしたら、それは軽率過ぎだった。

未踏破地域は危ないことが確定していない場所であって、危なくないわけではないのだ。


「あれかな。また貴坊の予知に頼ったのかな?」


 貴坊の予知は、レベルが低いうちはどうやら正確ではないらしい、と俺は思っている。

だが、数回に1回は当たるので、その成功体験が判断を鈍らせているのだ。

当たらないうちは、まだ予知された場所に到達出来ていないと思えばよいからだ。


 まあ、例え巨大カマキリのような危ない魔物に遭遇しても、ノブちんやせっちんのスキルならば、かなり有利に戦えるはずだ。

女子みたいにバラバラになっていなければ大丈夫だろう。

リーダーの委員長が亡き後、代わりの指揮役は丸くんだろうか。

集団の利は解っていると思いたい。


 腐ーちゃんの背を追いかけていた俺だが、その腐ーちゃんが走る速度を落とした。

俺は、その理由を知るために周囲を警戒する。

どうやら腐ーちゃんの足元に何かが転がっているらしい。

俺の気配を感じたのか、腐ーちゃんが振り返る。


「やあ、転校生くんか。

君の眷属が良い仕事をしてくれたよ」


 腐ーちゃんが親指を立てて示した先にはクモクモがいて、その足元にはバスケ部女子が蜘蛛糸で簀巻にされていた。

たしかに俺が「面倒なら蜘蛛糸で縛り上げて連れ帰る」と言ったのだが、まだそんな面倒事にはなってはいない。

クモクモ、フライングしすぎ。

バスケ部女子が、もうちょっと拠点に帰るのを騒いでゴネるとかがあってから、これじゃあしょうがないからと簀巻にして欲しいところだ。

ご丁寧に騒がないように口枷まで蜘蛛糸でしている。


「説得に時間が取られるより良かったと思うぞ?」


 腐ーちゃんの言う通りかもしれない。

バスケ部女子は、このまま腐ーちゃんに拠点まで連れ帰ってもらおう。


「腐ーちゃん、バスケ部女子を拠点まで頼めるか?

俺は、まだ帰って来ていない男子を探してみる」


「え? 男子がまだだったんだ。

じゃあ、頼まれとくよ」


「すまない」


「いいってことよ」


 俺は日没までに拠点に帰れるギリギリの時間まで男子の捜索を続けることにした。

相手は予知により先に進んだと思われるため、その行動に根拠や整合性はない。

あくまでも適当に探すしかなかった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 時を戻そう。


Side:貴坊


 拠点から狩りに出た僕たちは、僕の予知で食べられる獣のいる場所へと向かっていた。


「また逃げられたみたい。

もうここには居ないって」


 僕の予知は気まぐれで、どうやら数回に1回しか正解を導けないようだ。

だけど、それを皆に言うわけにはいかない。

散々連れまわした結果がハズレでしたなんて言えるわけがない。

だから、予知した場所はここだけど、ここに居た獣はもう移動してしまったと誤魔化したのだ。


「次は向こうだって」


 僕の誘導でまた違う場所に向かう。

だって、また【予知】を使ったら向こうだって言うんだもん。


「ここにももう居ないね。

じゃあ、次は向こうだって」


 いつかは正解に辿り着くはずなんだ。

だから、僕はハズレだとわかった時には、新たな【予知】でもって違う場所へと誘導し続けたんだ。


 だけどあっちに行ったりこっちに行ったりと、僕の誘導に頼りきって進んでいくうちに、僕は重大なミスに気が付いた。

拠点がどっちにあるかすらわからなくなっている!


 予知だと言ってあっちこっち行っていれば、そのうち帰り道なんてわからなくなって当たり前だ。

でも、皆には不安はない様子だ。

なぜならば、僕が予知で拠点まで誘導してくれると信じているからだ。


 拙い。早く当たりを引かないと大変なことになる。

僕たちの迷走が始まった。


「おい、そろそろ帰らないと拙くないか?

貴坊、本当に大丈夫なのか?」


 獲物も狩れずに迷走を続ける僕たちが、迷子になっているのではないかと、雅やんが気付いたようだ。


「そうだな。

貴坊、今日の狩りは諦めて帰るんだな」


 ノブちんは雅やんの提案は時間的なものだと思って、帰還することを決め命じた。

委員長亡き後、この男子チームのリーダーはノブちんだ。

皆、ノブちんの意見に従うようだ。

彼は最近もっと自信に満ちていたのだが、バスケ部女子との口論でまた元の自信なさげな態度に戻ってしまっていた。


 だが、困ったぞ。

帰ろうにも誰も帰り道を知らない。

どこでどっちに曲がったかなんて、誰も記録していないのだ。

それはそうだろう。僕が【予知】で誘導したのだ。

帰り道も僕が【予知】で誘導すれば良いと誰もが思っているだろう。


「うーん、こっちだね」


 僕は再度【予知】スキルを使うと皆を誘導しはじめた。

今度こそ帰れますように・・・・・・・当たりを引きますように。


 暫く進むと森一色の風景が一変していた。


「おい、あれ道じゃないか?」


「そうだ。間違いない!」


「やった! やっと森から脱出出来たんだ!」


 僕が予知で誘導した先には道があった。

最初は食べられる獣の場所まで誘導するはずだった。

だけどハズレを引き続けて今日1日迷走した結果、僕たちは迷子になっていた。

そして拠点へ帰る道を【予知】したら、街へと帰る道に当たってしまった。


「今からじゃ、拠点に向かうのは無理だろう。

野営するにしてもこの道沿いの方が安全だろう。

俺達は一旦街へと向かおう、それからまた女子たちを拠点まで迎えに行けば良いんだ」


 急にノブちんが自信に満ち溢れた表情になった。

長い日々探し続けた街へと至る道に出たのだ。

その達成感がノブちんに自信を蘇らせたのだろうか。


「貴坊、どっちだ?」


 僕たちは何処かの国に勇者召喚されたのだろうと推測していた。

つまり、どっちだというのは、その召喚を行った国はこの道のどっちだということだ。

その国に保護してもらうからには、その国の中枢――王都を目指すべきだった。


 僕は祈りを込めて【予知】スキルを使用した。


「あっちだ!」


 僕たちは希望に溢れてその道を歩き続けるのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき


 男子チームが貴坊の【予知】スキルで向かった先はこの国の王都とは逆の隣国へと向かう道でした。

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