第62話 不協和音2
『2人帰って来たよ』
突然俺とラキのパスが繋がって念話と視覚共有が来た。
『ちょっと、ラキ! 今は拙い!』
俺はバレー部女子とメガネ女子を連れて、サッカー部女子を背負って移動中だったので、思わず転びそうになった。
ちなみにメガネ女子はバレー部女子が背負っている。
俺は立ち止まると、ラキの視覚共有を切った。
俺がいきなり立ち止まったので、バレー部女子が怪訝な顔をして俺を見つめている。
「悪い、拠点の眷属から連絡が入った。
バスケ部女子とマドンナさんは無事だ」
ラキの念話と視覚共有により、俺は2人の無事を知った。
おそらく、わき目も降らずに拠点に逃げ帰って来たのだろう。
「そう……」
バレー部女子は、俺が眷属と連絡が取れるということを暴露したにも関わらず、その関心はバスケ部女子が無事に拠点まで帰ったことにあったようだ。
彼女にとって、バスケ部女子の行動は、メガネ女子とサッカー部女子を囮にした生き残りに見えているのかもしれない。
俺も女子チームリーダーとして、チームメイトを置き去りはどうかと思っていた。
マドンナさん同伴も、まさか自分だけ回復手段を確保していたのかと疑りたくなる。
「良かったわ。このまま2人を探しまわるはめになるのかと思った」
バレー部女子はどうやら本音は隠しているようだ。
いや、俺が邪推しすぎなのか。
「途中で裁縫女子と三つ編み女子の2人を拾って拠点に帰ろう」
俺は2人を隠した木のうろに向かった。
サッカー部女子の容体は安定しており、どうやら手当は有効だったようだ。
当然、彼女の容体が怪しかったら、2人は後回しにしているところだ。
◇
「サッカーちゃん!」
ぐったりした彼女を見て、裁縫女子が叫ぶ。
「大丈夫だ。手当済みだ」
なぜ睨む三つ編み女子。
あれか、治療方法のことか!
いや、嫌らしいことはしてないんだからね!
「他の2人は?」
裁縫女子が心配そうに訊ねる。
「安心して。拠点に戻ったとラキから聞いた」
「え?」
しまった。念話が使えることは、三つ編み女子には話していたけど、詳細は伝わらないと言ってあったんだった。
詳細がわかるのは視覚共有しているからで、念話だけではラキの意志は伝わらないんだった。
そこから視覚共有のことがバレたら温泉の事もバレて死ぬ。
「あー、なんか念話の内容が少し理解出来るようになったみたいなのを、さっき初めて知ったんだ」
「そう……」
何やら信用していないようだ。
温泉のこともあるし、絶対にバレないようにしなければならないな。
「まだサッカー部女子が不安だから、マドンナさんに診せたいと思うんだ。急ぐよ」
「あ、そうね」
やった。誤魔化し成功。
◇
「マドンナさん、居る? 緊急事態だ!」
俺は拠点に帰ると有無を言わさずにマドンナを呼んだ。
「はい! います!」
俺の声に慌ててマドンナが駆け寄る。
拠点に入って来た俺が、サッカー部女子を背負っていることが見えたのだろう。
「一応、下位の回復スキルを使ってある。
表面は治っているけど、内臓はわからん。
マドンナさんの回復魔法も使って欲しい」
「わかりました」
そう言うと、マドンナはサッカー部女子に祈りを捧げた。
サッカー部女子の全身を青い光が包み消えていった。
「ほとんど大丈夫だったみたい。
少し治療が必要だったけどね」
やっぱりか。今はその少しが命取りになりかねない。
「良かった。これで間違いなく助かるな」
そう俺が安堵していると拠点の奥から争う声が聞こえて来た。
どうやら、バスケ部女子の行動にバレー部女子がキレたようだ。
バレー部女子は、今回の遠征で4人が命の危機だったことを知っている。
その原因を作ったバスケ部女子が、仲間の救助に向かうでもなく、のほほんと拠点で寛いでいたのが許せなかったようだ。
これは一荒れありそうだ。
「ただいま」
そこに腐ーちゃんが1人で帰って来た。
「あ……」
俺は、腐ーちゃんのことを忘れていた。
まあ、彼女ならば、一人でどうとでも出来ると思っていたんだけどね。
ごめんなさい。
その忘れられる気持ちは俺が一番よく知っている立場だったんだ。
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