第61話 重傷

「悪いけど、二人はこの木のうろに隠れていて欲しい。

二人を危険な場所まで連れて行きたくない」


「「わかった」」


 俺は二人を木のうろに押し込むとクモクモにまたベールで隠してもらった。

これで二人を守りながら他の女子も探すという苦行をしないで済む。

とりあえず、最初に巨大カマキリに襲われたという平原までを索敵しつつ進んでみよう。


 俺の前をクモクモが立体軌道装置かの如く蜘蛛糸で飛んでいく。

いやハリウッド映画の蜘蛛男か。

その高い位置からクモクモが周囲を見渡して探してくれているのだ。

俺も気配を探りながら先を急ぐ。

未だ交戦中ならば、助けなければならないのだ。


「!」


 周囲から血の臭いが漂って来た。

これは良くない兆候だ。

この森の中、漂って来るとしたら魔物か人の血の臭いということになる。

巨大カマキリは緑色の体液を流すので、このような血の臭いはない。

嫌な予感しかしない。


シュタッ!


 クモクモが右前足でシュタッと合図すると左前足で方角を示した。


「こっちか!」


 そこは平原から森の中に入って結構直ぐの場所だった。

この位置ならば、巨大カマキリも平原から森に入って来易い位置だろう。

そこには3人の人影があった。


「無事か!」


 俺はそう言いながら3人に駆け寄った。


「!」


 俺の嫌な予感は当たってしまっていた。

そこには泣きじゃくるメガネ女子、懸命に患部を圧迫しているバレー部女子、そして倒れたサッカー部女子の姿があった。


「クモクモ、周辺警戒を頼めるか?」


シュタッ!


 クモクモがいつもの了解の合図をしてくれた。

俺は声をかけつつ3人に近付いた。


「どうなってる? 治療は?」


 俺が問いかけるとメガネ女子が泣きながら答えてくれた。


「カマキリに何度も襲われて……。サッカーちゃんが!

バレーちゃんが助けてくれたんだけど、サッカーちゃんはもう倒れてて……」


「マドンナは?」


「わからない」


「なら治療は出来てないんだな?」


「うん」


 俺はバレー部女子の隣に跪くと、患部を観察した。

既にバレー部女子は、自らのインナーを割いて包帯とし、止血をしていた。

左腕と右腿に裂傷があり、包帯で縛って止血してあった。

そして、重症なのが腹部の傷、おそらく巨大カマキリの鎌が刺さったのだ。

そこをバレー部女子が、必死に圧迫止血していた。

かなり拙い状態だ。


「俺は【手当】という回復スキルを手に入れた。

だが、このスキルは文字通り直接手を当てないと治せない」


 俺はそう言うと、サッカー部女子の左腕の包帯を外し裂傷に手を当てて【手当】を使った。

すると青い光とともに左腕の裂傷が治っていった。

その様子を目撃したバレー部女子が頷く。


「脱がすしかないんだね?」


「いや、捲るだけでも良いんだが……」


 そこは臍より下、捲るというか下ろすのはスカートの方だった。

丁度盲腸の手術をする箇所と言えばわかるだろうか?

率直に言うと下腹部だ。ローライズの下着でなければ下着の中に手を入れなければならない位置だろう。

そこに手を触れるというのは、三つ編み女子の上半身裸(の背中)に手を触れるのよりも更にハードルが高い。


「医療行為だろ。

マドンナちゃんがいない今、頼れるのは転校生くんだけだ。

気にすることはない」


「わかった」


 そうだ。医療行為なんだから、恥ずかしがること自体が失礼にあたる。

助けるためだ。頑張るしかない。


「どっちみち、右腿も治すならば、脱がした方が速い」


 バレー部女子は、そう言うとメガネ女子に指示をしてサッカー部女子のミニスカートを脱がさせた。

いや、メガネ女子は膝までスカートを下げた。

下着が丸出しである。

そして、制服の上も少し捲りあげた。


「お願い」


 バレー部女子に促されて、交代のタイミングを計る。


「3で行く。1、2、3」


 3でバレー部女子が手を放し、俺が患部に手を当てた。


「【手当】!」


 青い光が出るが、なかなか治った気がしない。


「【手当】【手当】【手当】」


 ダメなのかと思いつつ、連続で【手当】を使った。

すると4回目でようやく手ごたえを感じる事が出来た。


「次は右腿、【手当】【手当】」


 ちょっと範囲が広かったので手が当たらない部分が【手当】出来ずに2回となった。


「これで一命は取り留めたと思う。

でもマドンナさんにもう一度見てもらった方が良い。

お腹の中まで治ったかは正直確証がない」


 そして、俺は身嗜みを整えたサッカー部女子を背負って木のうろまで戻るのだった。


 道中、バレー部女子が戻った経緯を聞かされた。

自分は巨大カマキリに追われなかったものの、メガネ女子と肩を貸していたサッカー部女子が気になったのだそうだ。

戻って正解で、サッカー部女子が最後の巨大カマキリに倒されるところだったとか。

その巨大カマキリを倒して止血をして今に至るということらしい。

バレー部女子が戻らなかったら、メガネ女子とサッカー部女子の二人とも危なかったところだ。


「バスケ部女子とマドンナさんは?」


「わからない。一緒ならば良いんだけど……」


 うーん、今回の遠征、かなりヤバいぞ。

男子チームは大丈夫なのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る