第60話 合流
「他のみんなは?」
「巨大カマキリに追われて、皆別々に逃げたの」
三つ編み女子によると、ホーンラビットを狩った後、巨大カマキリと遭遇したんだそうだ。
巨大カマキリはホーンラビットが好物らしく、肉を持っていた三つ編み女子、メガネ女子、裁縫女子が狙われた。
メガネ女子は怪我をしていて、マドンナに回復魔法をかけてもらったが、出血が酷くサッカー部女子が肩を貸していたそうだ。
「それじゃあ、メガネ女子と、裁縫女子がまだ狙われている可能性があるんだな?」
バラバラに逃げたということは、裁縫女子には護衛が誰もいないということだ。
メガネ女子にはサッカー部女子がついているが、怪我のせいで足が遅くなっている。
こっちも危ない。
なんでバスケ部女子とバレー部女子は、非戦闘職の護衛についてくれていないんだろうか。
しかもホーンラビットの肉の臭いで2人は狙われる可能性が高いだろうに。
ちょっとその自分勝手さに怒りを覚える。
「私が一番狙われていたんだけど、たぶん次に狙われるのは2人だと思う」
どっちに逃げたかわからないのが問題だが、助けに行かないと。
「三つ編み女子は一人で……無理だよね」
三つ編み女子に一人で拠点に帰れるかと訊こうとしたところ、今にも殺されそうな小動物みたいにプルプルしだした。
巨大カマキリ2匹に囲まれて、死を覚悟したんだから、そりゃ無理だ。
かといって巨大カマキリのいそうな場所に三つ編み女子を連れて行くわけにもいかない。
俺が悩んでいると、クモクモが目の前に来てシュタッと右前足を挙げた。
「きゃっ……」
三つ編み女子が短く悲鳴を上げたが、そのまま口を押えて飲み込んだ。
どうやらクモクモを魔物だと思って刺激しないようにと思ったらしい。
「ああ、こいつはクモクモだよ。
ほら、右前足に青いハンカチが結ばれているだろう?」
「ほんとだ。驚いちゃってごねんね、クモクモ」
まあ、彼女は虫系に殺されかけたんだ。
怖くなっても仕方がない。
クモクモは、こっちというように右前足を向けた。
「どうやら、向こうに同級生がいるらしい」
俺たちはクモクモの誘導で森の中を進んだ。
◇
とある大木の根本に、クモクモが張った蜘蛛糸のベールがかかっていた。
そこは木のうろになっているようで、そこへの侵入をクモクモのベールが阻害しているのだろう。
このベールにくっついたら、巨大カマキリやゴブリン程度ならば、身動きできなくなる。
そのベールにクモクモが左前脚でつーーっと縦に切れ目を入れた。
するとそのベールの向こうには裁縫女子が隠れていた。
「転校生くん!」
裁縫女子はクモクモのベールから抜け出すと、俺に抱き着いて来た。
「怖かったー」
そう言って俺の胸で泣いた。
いや、これは不可抗力です。
なんで三つ編み女子に睨まれないといけないのだろうか?
裁縫女子によると、巨大カマキリに追いかけられるのは、ホーンラビットの肉の臭いが原因だと思い、自らに【クリーン】をかけたのだという。
そのおかげかどうかわからないが、巨大カマキリの追手を振り払うことが出来たのだそうだ。
しかし、たった一人で森の中を移動するのも、非戦闘職の裁縫女子には荷が重く、この木のうろで身を隠していたらしい。
そこにクモクモが通りかかって、安全のためにベールで隠してくれたんだそうだ。
「やるな、クモクモ、えらいぞ」
クモクモを褒めると、クモクモは身体を左右に揺らす踊りを見せて喜んだ。
それにしても、裁縫女子はクモクモを識別出来るんだな。
まあ、俺から奪って結構長く一緒にいたからな。
クモクモも、そのおかげで裁縫女子を見つけられたのかもしれないしな。
「クモクモ、他の女子たちはわかるか?」
クモクモの返事は、前足で×をつくる「わからない」だった。
あと居場所がわからないのは、バスケ部女子、バレー部女子、腐ーちゃん、マドンナ、サッカー部女子とメガネ女子のコンビか。
バスケ部女子、バレー部女子、腐ーちゃんは、単独で巨大カマキリに対処可能だろう。
一番ヤバイのはサッカー部女子とメガネ女子のコンビとマドンナだな。
サッカー部女子のレベルならば、巨大カマキリ1匹相手ならば、戦えるだろう。
しかし、複数相手だったならば……。俺は嫌な予感を頭から振り払う。
マドンナも単独で逃げているならば危険だ。
彼女も戦う術を持っていない。
ラキが同行していれば、こんなことにはならなかった。
いや、今までラキを同行させていたおかげで、その恩恵を実力と勘違いしたのかもしれない。
どちらにしろ、俺にはこの事態への責任があるのかもしれない。
彼女たちの無事を祈らずにはいられない。
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