第56話 その頃女子チームは2
獲物の血抜きにはいくつか方法がある。
獲物の心臓が動いているうちに動脈を切って血液を流出させる方法と、死んだ獲物をしばらく流水に浸けるという方法だ。
血抜きをするかしないかで肉の味が違うんだとスキルが教えてくれた。
私はレベル4に上がった時に水魔法が使えるようになったのでそれを使う。
でも、水に浸けるのではなく、血液を水分として操作するのだ。
血管を傷つけてそこから血液を動かして抜いてしまう。
血液はゴミ捨て用に掘った穴に流す。
そして後は内臓を取り出して穴に捨て、毛皮を剥いで確保。
包丁で腱を切って肉を分ける。
そこではたと気付いた。
「この肉をどうやって運ぼう?」
私たちには肉を運ぶ鞄すらない。
ノブちんたちは力があるから猪を木の棒に括り付けてそのまま運んできた。
しかし、ここで解体してしまうと、生肉を素手で抱えることになる。
荷物の重さは確かに減らせるけど、持ち運ぶには逆に不便だ。
「これ使って」
裁縫ちゃんが持ってきたのは、草の葉で編んだ籠だった。
肉を包むためのバナナの葉のような大きな葉っぱもある。
これで包めば運ぶ人の服も汚れないで済むだろう。
って、それ荷物持ちの私たちのことだったわ。
さすがに裁縫ちゃんも素手で運ぶのは無理だもんね。
「ありがとう。
モモ肉は骨付きの方が持ちやすいよね?」
「そうだね」
荷物持ちの私とメガネちゃんは、草の籠の紐を襷掛けするとモモ肉を手にした。
裁縫ちゃんには草の籠とホーンラビットの毛皮を持ってもらった。
身体強化で重くはないけど、傍から見たらシュールな絵面だ。
「誰か火魔法を持ってないかな?
生ごみを焼いて欲しいんだけど」
「それは私が」
バレーちゃんが名乗り出てくれた。
彼女はレベル3に上がった時に火魔法を手に入れていたのだ。
意外なことに火魔法が使えるのは、この8人で彼女だけだった。
穴を掘って捨ててあった内臓などの生ごみはバレーちゃんの火魔法によって焼却された。
その穴を丁寧に埋めて解体処理終了だ。
これで魔物を寄せることは無い。そう私たちは思っていた。
「メガネちゃん、探知!」
「周辺に反応なし」
「じゃあ、少し移動しよう」
次の獲物を求めて私たちは平原を歩きだした。
「止まって!」
メガネちゃんがチームの進行を止めた。
「あっちに反応が3つある」
それは私たちの進行方向だった。
「どうする? 3匹だと無理かな?」
「腐ーちゃんの魔法は?」
「私の腐食魔法だと脚が食べられなくなるけど、それで良いなら」
たぶん、ホーンラビットはモモ肉が一番美味しいと思う。
それが腐食で食べられなくなるのは勿体ない。
「ホーンラビットなら勿体ないね。だけど、ゴブリンとかだったらお願いね」
「了解した」
どうやらこのまま進んでみるようだ。
1匹ならば楽勝だったのだ。
3匹ぐらいならばなんとかなるとバスケちゃんは思ったのだろう。
でも、そんなに狩っても持って帰れないよ?
持ち帰れるのは、あと1匹分がせいぜいだと思う。
「伏せろ! なんだあれは? 虫?」
先頭のバスケちゃんが遭遇したのは人間大のカマキリだった。
女子は往々に昆虫の名前は知らないものだ。
それが3匹。どうやらホーンラビットの警戒音に釣られて接近して来たようだ。
「気持ち悪い。逃げよう」
その草のような首や脚はまだしも、その腹部が女子には受け付けなかった。
「だめ、囲まれてる」
メガネちゃんがカマキリに聞こえないように静かに言う。
既に女子たちは周囲を巨大カマキリに囲まれていた。
平原には平原の脅威が存在していたのだ。
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