第55話 その頃女子チームは1

Side:三つ編み女子


「転校生くんを怒らせちゃったんじゃないかな?」


「えー? クモクモは出掛けてて、ラキちゃんは拠点の守りに必要って言ってたじゃん」


 でも、それは理由にしただけだと思う。

そう言いたかったけど、バスケちゃんは一度言い出したら聞かないところがあるんだよね。

私はそれが面倒に思えて、それ以上口に出すことは出来なかった。


 今日は温泉方面の先を目指していたんだけど、いつもラキちゃんに守ってもらっていた私は、どうも不安感が拭えないでいた。


「ここって、こんなに不気味だったかしら?」


「そうか? いつも採取に来るけど、魔物が出ない安全なところだねって言ってたじゃん」


 そうだけど、今日は雰囲気が違うってことを言いたいんだけど。

なんだか嫌な予感しかしない。


「今日は、ちょっと先の平原まで出るよ。

そこなら兎系の獲物がいるだろう」


 私たちは、数日前に森の切れ目を発見していた。

森の切れ目の先は、ひざ丈の草に覆われた平原だった。

しかし、その更に先はまた森となっていて、どうやら森の出口とは違うようだった。

森から出るためには、やはり渓流沿いを下るしかないのかもしれない。


 バスケちゃんの判断で、私たちは平原で兎のような生き物を狩ることにした。

そんな生き物を目撃したわけではないけど、きっといるはずだという意見だった。

確かにラノベでもそんな討伐初心者向けの魔物が居る。

だけど、もしあの魔物だったら、結構危険なんだけどな。


 そうこうするうちに私たちは平原へと辿り着いた。


「兎狙いって言うけど、あんな可愛い兎ちゃんを殺せるの?

僕は無理かも」


 意外なことに、サッカーちゃんが躊躇していた。

うちの貴重なアタッカーの意外な弱点だった。


 このチーム、バスケちゃん、バレーちゃん、サッカーちゃんが前衛のアタッカーだ。

腐ーちゃんが攻撃魔法で、マドンナちゃんが治癒魔法で後衛。

そして私と裁縫ちゃんとメガネちゃんが荷物係だ。

誰がお荷物だって? うるさいわ!


 私は料理で裁縫ちゃんが裁縫、メガネちゃんは知識系のスキルだった。

やっとゴブリンと1対1で戦える程度の身体能力しかない。

レベルアップで便利スキルが手に入るはずなんだけど、魔法の得られるレベル3の時にも生活魔法とかの非戦闘系の魔法しか覚えられなかった。

私だって火魔法で戦いに参加したかったんだよ?

せっかく来た異世界なんだし、派手な攻撃魔法を使いたいよ。

だけど、ギフトスキル【料理神の加護】に引きずられたのか、手に入ったのは料理に便利な生活魔法や水魔法スキルだけだった。


「うーん、じゃあ三つ編みちゃんが前衛ね」


「え? 私?」


「ほら、ゴブリンナイフ包丁で、スパッと肉を捌けるじゃん。

あれをやれば良いだけだよ」


 バスケちゃんは強引だから、私が前衛になってしまった。

でも私はレベル3のバレーちゃんより上のレベル4だ。

バレーちゃんが前衛をやるのに、私が後ろで守ってもらうのは違う気がする。

よし、がんばるぞ。


 ◇


「あっちに居る気がする」


 メガネちゃんが【探知】魔法で兎の居場所を特定してくれた。

彼女がレベル4になって取得したスキルで、まだまだ使い慣れていないんだけど、使い熟せれば便利な魔法だと思う。


 気配を消し風下に回って、そっと近付いて行く。


「いた!」


 メガネちゃんが細かく【探知】をかけて兎をみつけた。

しかし、その兎、やっぱり何か違う。


「なにあの角?」


「やっぱりあれかー」


 腐ーちゃんが苦笑いしている。

そう、それはラノベでも有名なホーンラビット――所謂角兎だった。

でも、私にとってそれは、一撃で命を狩られるかもしれない恐怖の魔物だった。


「ホーンラビットって危険生物じゃないの!」


 私は声を殺して叫んだ。

ホーンラビットは初心者冒険者が遭遇して、運が悪ければ命を落とすと言われているのだ。

ラノベ知識だけどね。

ホーンラビットは体長1m30cmぐらいで、その額から突き出た禍々しい角は30cmはあるだろう。

それに対して私のゴブリンナイフ包丁の刃渡りは20cmぐらいだ。


「無理無理無理無理」


 ゴブリンナイフ包丁1本の私にどうしろと言うのよ!


「それに魔物肉は食べられるかわからないんだから……え? 美味しいって?」


 【料理神の加護】は食材ならば鑑定が出来るんだったわ。

その鑑定結果が勝手に頭に浮かんでくる。


「美味しいなら狩るしかない!」


 美味しいと聞いてバスケちゃんの気合が入る。


きゅーーーーーーーーん!


 その時、草原にホーンラビットの鳴き声が響いた。

それは警戒音なのだろうか、私はホーンラビットに逃げられると思った。


「逃がすか!」


 バスケちゃんもそうだったようで、【俊足】のスキルを使ってホーンラビットに肉薄し、剣で切り付けていた。


ズバン!


「やった!」


 サッカーちゃんの声が上がる。

どうやらあまりに大きくて太々ふてぶてしい顔のホーンラビットは、彼女にとっても可愛い兎ちゃんではなかったようだ。


「手ごたえあったわよ! これで男子にデカい面されないで済むわ」


 私たちはホーンラビットの肉を手に入れたのだ。


「どうする? ここで解体しちゃう?」


 ここは私の料理スキルの出番だ。

解体すれば、余計な荷物が減るから、次の獲物を狙うことも出来る。


「三つ編みちゃん、頼んだわよ」


 私の仕事はやっぱりこれだ。

料理スキルのおかげで、グロ耐性が出来たのは救いだろう。

捌いた獲物は料理の素材だとしか思えない。

誰にも出来ないことが私には出来るんだ。

前衛の仕事は復活したサッカーちゃんに任せれば良いよね?

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