第46話 虫卵孵る

まえがき

 委員長には「ゴブリンの死骸に学ランを着せる時間がない」とのご指摘があって、結構な長文で説明したのですが、削除に巻き込まれて消えてしまったようなので、再掲載します。


 ノブちんたちが灰色狼に追われだしたのが旧キャンプ地の近くで、灰色狼が引き返したのが拠点の近くです。

この2点間の距離は歩いて1時間、身体強化で走って30分と以前に記述しております。

ノブちんたちが灰色狼に追われていた時間は少なく見積もっても20分はあり、そこから灰色狼が旧キャンプ地に引き返すまでにも同じ時間がかかります。

つまり40分あれば、委員長はゴブリンの所まで戻り、自分たちの倒したゴブリンを旧キャンプ地まで運び、学ランを着せて偽装し、逃げることが可能なはずです。

委員長も身体強化は持っているので、ゴブリン1体を運ぶ力もあります。


 ということでした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そんな! 間違いないのね……」


 俺たちの報告を聞き、バレー部女子が泣き崩れる。

もしかして委員長と付き合っていたのだろうか?

いや、告白もしていない片思いだった可能性もあるか。


「改造されていないノーマルな学ランに骨が見えた。

この中で学ランを紛失した者はいるか?」


 ヤンキーの学ランが改造学ランで特殊な見た目なことは誰もが知っていた。

裏地が派手でとんでもない刺繍が施されているのだ。

そして、ここに残っている男子全て――俺はブレザーなので除く――が学ランを着ていたのだ。

消去法でその学ランが委員長のものであることは確定していた。

それを纏う骨となれば、察するしかないだろう。


「転校生の見間違いじゃないのか?」


「そこは私も確認したから」


 マドンナが俺の証言を追認する。

これで信じない同級生はいなかった。


「ああ、委員長、俺たちのために……」


 男子チームの中では委員長は英雄となった。

冷静に考えれば、彼の失策によりピンチに陥ったわけで、無駄な犠牲なのだが、それは言わないでおこう。


「グレーウルフは危険だ。

残念だが、もう旧キャンプ地には近寄らない方が良い。

あそこはグレーウルフの巡回狩場になったようだ」


「そうか……。そうだな」


 俺の説明にノブちんも納得する。


「ごめんなさい。なので委員長を埋めてあげることはできなかったの」


「仕方ないよ。誰でもそれは無理だから」


 マドンナに言われ、埋葬してあげたかったと皆口々に言う。

しかし、現実としてそれが不可能なことも理解していた。

こうして俺たちは委員長の死を受け入れることとなった。



 ◇



 水も食料もあり、レベル上げもある程度出来ていたため、委員長の死を悼んで2日ほどは拠点で静かに過ごした。

相変わらず鶏はうるさいが、その糞の処置は【クリーン】でどうにでもなるので、鶏も拠点に同居状態となっていた。

そっちの衛生管理は丸くんの担当であり、彼はギフトスキルの【クリーン】を使っているようだった。

鶏も卵を産みはじめ、貴重な食糧源となっていた。


 そう【クリーン】、あの後、マドンナから【クリーン】の存在が女子チームに齎された。

まるで風呂に入ったかのような綺麗な髪を取り戻したマドンナに、女子チームが群がり事情聴取したのは言うまでもない。

その結果、俺が女子たちに【クリーン】を使うはめになったのだが、よくよくステータスを調べると、三つ編み女子がレベルアップに伴って生活魔法と水魔法を手にしていたことが発覚した。

彼女は料理系のギフトスキルだったため、そういった系統で成長しているようだった。

それにより、俺の【クリーン】担当は一瞬にしてお役御免となった。

女子と触れ合える貴重な時間だったが、それはそれで面倒が無くなって助かった。

MPも消費するしな。


 そんな平和な日常を過ごしていると、誰も委員長の事を語る者は居なくなっていた。

そして、俺の周囲にはある変化が訪れていた。


パキパキパキ


「! そうか、孵るのか!」


 バスケットボール大の真球に近い虫卵Lv.3に異変が始まった。

卵の表面が割れはじめ、中から何かが出て来るようだ。

俺は虫の卵の殻が割れるという印象を持っていなかった――エイリアンのような柔らかい殻のイメージだった――のでその割れる音を意外に思っていた。


パキパキパキ


「カブトムシ系で戦闘の役に立つやつだったら良いな」


 俺は期待に胸を膨らませてその孵化を待った。

気分はムシ〇ングだった。

なぜか家にゲームソフトがあって小さい頃に遊んだ記憶があったのだ。

誰の趣味だったのかはいまだに不明だ。


パキ コロコロ


 俺はその光景に目を見張った。

卵の中から緑色の塊が転がり出て来たからだ。


「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 その塊が動き出し身体を伸ばすと、それを見た女子が悲鳴を上げた。

それは丸まると緑のバスケットボールだが、伸びるとイモムシだったのだ。

モンスター名で言うとキャタピラーと言われるやつだ。

アゲハ蝶の幼虫みたいなやつが巨大になった感じか。


「思ったのと違う!」


 焦る俺を余所に、もう1つの虫卵の孵化が始まった。


パキパキパキ カサカサカサ


「ぎぃやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 それは蜘蛛だった。

大きさは同じぐらい、いやそれは本体部分だけの話で、脚を広げるとその3倍の大きさになった。

見た目はタランチュラだろう。

蜘蛛は卵から孵った瞬間から蜘蛛だった。


「ちょっと転校生くん! その虫は拠点内NGだからね!」


 女子たちにめちゃくちゃ怒られた。

俺だってカブトムシ系の格好良い虫を想像していたんだぞ。

それに蜘蛛って虫じゃないぞ。


 それでもイモムシと蜘蛛は俺に寄り添ってスリスリと甘えて来ていた。


「ほら、こんなに懐いてカワイイじゃないか。

そもそもトカゲとそんなに変わらないじゃん」


「無理! 絶対無理!」


「虫卵禁止!」


 うーん、田舎の子たちなのにこっち系の虫には耐性が無かったか。

こうして俺の眷属2匹は拠点の外を住み家とせざるを得なくなった。


「ごめんなお前たち」


 俺は泣く泣く2匹を拠点の外に出した。


「キャピコを頼むぞクモクモ」


 2匹に名前をつけてやると、クモクモはしゅたっと右前足を挙げて了解の意志を伝えて来た。

この子たち、意外に頭が良さそうだぞ。

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