第9話 生卵はキツかった

 委員長の毒見――といっても男子は全員飲んでしまったが――で水を安全に飲むことが出来たことで、誰かが実験台になって毒見をすれば良いのだと、誰もが気付いてしまった。

尤も、クリーンによって浄化されたであろう水と、その他の食物では安全性に天と地もの差がある。

それでもアホはいるもので、誰かを犠牲にすれば自分は助かると自己中な考えに陥る者が出て来るのだ。


「おい、転校生、ちょっとこれ食ってみろ」


 ヤンキーたちがターゲットにしたのは、このコミュニティーのカースト最下位と位置付けられた俺だった。

奴らは、腹が減ったからと、ゴブリン焼き肉を俺に実験台になって食えと言うのだ。


「嫌だね。俺に無理やり食わせたら、二度と玉子をやらないからな」


 俺から得られる玉子は、現在唯一の安全な食材だ。

今はMPが枯渇して出せないが、なんらかのきっかけでMPが回復すれば、次の玉子を召喚できる。(実はレベルアップ時にMPはフル回復しているが内緒だ)

それが貰えないというのは、ヤンキーたちにとっても拙いと思ったらしい。


「あはは、冗談だよ。冗談。本気にするんじゃねーよ」


「これだから真面目な都会もんはw」


 いや、どう判断しても後先考えずに無理強いするつもりだっただろうが。

だが、玉子の脅しが効いたのか、ヤンキーどもは去って行った。

ふん、俺の水を奪ったヤンキー2、お前にやる玉子はもう無いから。

それぐらい理解してから行動に移れよ。


 さて、さすがに俺も、飲まず食わずで限界だ。

とりあえず人目につかないようにここを離れて、玉子を食って水を飲もう。

こいつらと一緒にいるのも、充分にレベルが上がるまでだ。

いつまでも利用されるのならば、さっさと袂を分かった方が良い。

だが今は玉子を召喚して経験値を溜めるべきだ。


 さて、前回は玉子11個と卵1個、そしてゴブリンを倒したらレベルが上がった。

RPGのお約束なら次のレベルまでの経験値は、それ以上必要ということだ。

とりあえず、玉子を12個召喚して飲もう。

俺は映画で〇ッキーが簡単にやっていたからとそれを甘く見ていた。


「無理! 生卵大量に飲むなんて絶対に無理だわ!」


 まるで白身が鼻水のような食感だった。

幸いなことに、それに1個目で気付くことが出来た。

玉子を12個召喚した後だったら詰んでいたところだ。


 俺は慌てて水トカゲに水を出してもらうと飲み込んだ。

うがいをして出したいところだが、貴重な水だ。しっかり飲み込んだ。

水トカゲが出した水というと、トカゲの身体から水が滴るイメージを持つかもしれないが、そこは魔法であり、空中に水の玉が出た。

まるで宇宙飛行士が無重力空間で水の玉を口に入れるかのように、俺もそれを飲んだ。


「玉子は火を通した方が断然美味い。それを再確認したよ……」


 となると焚火から火を貰うか……。

いや、何に使うのかと疑われると面倒だな。

となると、自前の火を得るのが今後のためにも必要か。

ならば、また卵を召喚して火トカゲとかが孵ればいけるんじゃないか?

俺はそう期待してまた卵を召喚してポケットに仕舞った。

これで半日後ぐらいにまた孵るだろう。


「!」


 玉子を隠れて食うために、同級生から離れたのが良くなかった。

俺の目の前にはゴブリンが2匹いて、こっちに向かって来るところだった。


「【身体強化】」


 俺は【身体強化】のスキルを使った。

これによりパワーやスピードが上がるはずだ。

手元には武器として確保した拳大の石もある。

俺は、その【身体強化】の力を乗せて拳大の石をゴブリン目掛けて投げた。

その石は狙い違わずゴブリンの顔に直撃し倒した。

だが、その隙にもう1匹が接近して来ている。

俺は第二投をもう1匹に向けて投げる。

しかし、慌てていたせいか外してしまった。

どうやらヘッドショットは、当たれば必殺だが、外れ易いようだ。


「拙い」


 俺は最後の石を右手に掴み、打撃武器としようとゴブリンを待ち構えた。

ゴブリンがこん棒を振りかぶる。

俺はまた左に避けると一歩踏みだし、右手でカウンターの石をゴブリンの顔にぶつける。

身体強化のおかげか以前より楽に体が動いた。

そして俺は2匹のゴブリンを倒すことが出来た。


『経験値が上限に達しました。

レベルが上がりました。

スキル:火魔法Lv.1を獲得ました』


 なんというご都合主義。

火魔法が手に入った。

これで玉子を焼いて食べられる。

しかし、ゴブリン2匹でレベルが上がるとなると、必要経験値はゴブリン1匹+たまご召喚数回というところか。

その余った経験値+ゴブリン2匹でレベル3になれたのだろう。


「とりあえず、ゴブリンのこん棒はゲットしておこう」


 そして、ステータスを見てみる。


名前:転校生

人種:ヒューマン

職業:なし

レベル:3up

HP:35/35up

MP:40/40up

スキル:身体強化

    火魔法Lv.1new

ギフトスキル:た*まご?召喚 ▼


 ステータスも上がって、今ならクラス全員に玉子を1個ずつあげてもまだMPが余る。


「ああ! レベルアップ前に玉子を召喚しておけば良かった。

20個召喚してもお釣りがくるだけMPが余っていたのに」


 俺は偶発的な事故であったゴブリン討伐前に玉子を出しておけば良かったと後悔した。

貴重な食料なのだから、多ければ多い方が良い。

まあ後の祭りなんだが……。


 だが、そうなるとMP復活の理由をバラさなければいけなくなるんだよな。

MPがレベルアップで復活すると判れば、俺は玉子製造機にさせられるだろう。

そうならないためにも、ここは隠蔽出来て良かったと思うべきか。


「ん? ▼って何だ?」


 ステータスに変な表示が増えている事に俺は気付いた。

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