第27話

「さぁ追い込むよ! 世界大会まで半年、まずは地区大会、その2ヶ月後の全日本もうちで独占しよー!」


 店の中がヒリつく中で声を上げながら回り、指摘する点と良い所をひとりひとりに伝え歩く。本店に居るスタイリストの数は11人。更にアシスタント16人を含めて27人。秋華と協力して何度も店の中を往復し、休日にも関わらずフル出勤の社員を相手に技を伝える。


 そうしてあっという間に半日が終わって最後のひとりが帰宅し、秋華と2人でへとへとになりながら社長室のソファーに飛び込む。


「なんでうちの子たちは全員大会出たがるんだろ」


「なんでって、しゃちょーに憧れて入ったからに決まってんじゃん」


「万年2位の秋華も居るから?」


「はまじ消えろよ、しゃちょーさえ居なければ2連覇なのに」


「消すんじゃなくて超えてよ、お願いだから」


「消す方が早いっしょ。てか今日迎えに行くんじゃなかったっけ、きせきち」


「怒られるよその呼び方」


「2人ともなんでかしゃちょーが名付け親なんだっけ」


 棚に飾られた2人の幼少期の写真を手に取るために立ち上がり、埃が被らないように今日も入念に掃除する。


「ほんとに嬉しかったんだ。テレビで報道されてた映像見て、大きくなったらパパみたいになりたいって輝祈が言ってくれた時」


「え、あーうん。そっかそっか」


「輝祈が生まれた時、トラブル続きで先輩が焦って泣き過ぎてさ。奇跡だって私が呟いたらさ、それを名前にしちゃうんだからさ」


「結局繋がんのかよ。答えになってないと思って焦ったー」


「確かにちょっとおかしかったかな?」


 写真の中だけでも輝祈の頭を指で撫でて棚に戻し、次は星海の写真を手に取る。


「星海の時はね、少しだけ変わってて、私が毎日部屋に籠って練習漬けで、星の海が見たいって何度か言って、それで星海って思いついたらしくて」


「なんか、しゃちょーも可愛がられてた後輩の時期があったんだ」


「それはあるよ、下積みの方が長かったもん。でも、星を見に行く途中にあの事故があって……」


「──そろそろ輝祈ちゃん迎えに行って来なよ。そんで一緒にお昼ご飯でも食べて、星海ちゃん迎えに行ったげたら喜ぶよ絶対」


 唯一あの事故も2人との関係も知っているからか、秋華の前でずるずると溜め込んでいた言葉がこぼれかける。それを察知して珍しく真面目モードの秋華に突き放されて我に返る。


「うん。ありがと、秋華も来る?」


「娘相手にひよんなし?」


「行ってくれても無言の食事は辛いよ。ハダリーが居た時はまだ話してくれたけど、どうも私は苦手みたいで」


「年頃なんだから考えろー、ほら行った行った」


 手に持っていた写真を取られて背を押され、鞄を握らされて丁寧に店の外まで追い出される。

 仕方なく変な所で腹を括って車に乗りこみ、親指を立てて見送ってくる秋華に最後まで抗議の目線を送り続けるが、目を合わせて笑顔を返される。

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白日 雨宮 祜ヰ @sanowahru

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