第11話
ご飯を食べ終わってすぐに部屋に逃げていった輝祈が不在のリビングを前に、ハダリーと一緒に後片付けを始める。
机に向かって宿題をしている星海を時々見守りながら手を動かし続けていると、勢い良く足音を立てながら走る星海が輝祈の部屋に走って行った。
「宿題終わったなら片付けなよ」
「輝祈ねぇとお風呂!」
すぐにお湯を張ろうとパネルに指を伸ばすと、いつの間にか2分前に浴槽にお湯が適量になっていた。
「あれ、星海かな」
「そろそろだと思ったので貯めておきました」
「えーすごいね! 私なんて10年も一緒に居るのにそんな事分からなくて、ははっ。情けないなー」
「まぁ、3年居たんで」
乾燥機から出した食器類を棚に手際良く戻していたハダリーは片付けが終わると、カップに紅茶を入れて出してくれる。それを受け取って香りを鼻に流し込んでからゆっくり口に含む。
「3年?」
「はい。ベルカ様が世界大会で家を空けがちな時に毎日」
「だから輝祈も星海も警戒心無かったのかー。でも星海は誰にでもなのかな、この前のは多分大勢過ぎてかな」
「グレース様が絶対に見逃すなと」
「お母様はほんとに怖いよ、私の事を私より知ってそうで」
「グレース様ならあるのかもしれないですね」
再び走って戻って来た星海は机の上に広げられた宿題を持って、またすぐに部屋に消えていく。
「危ないから走らないよー」
いくつもの壁やドア越しにでもよく聞こえる返事が返ってくるも、見えないドアの向こうではドタバタと足音が止まない。
「輝祈様の事ですが」
「やっぱりびっくりするくらい嫌われてるよね」
「……まぁ。世界大会を出ない記事を見た時ですが、その時から少し気が立ってるように思いました」
「怒られたよ、それも帰って来て一直線にほっぺに一撃」
「それは珍しいですね、輝祈様は自分を制御する事が得意だと思っていました」
「恨まれてるだろうし溜まりに溜まっての1発だと思うけど、やっぱりびっくりしたかな」
「それがきっかけで入院ですから……水仕事は頑なに譲りませんね」
「水仕事はとにかく手が荒れる、だからやらなくて良いよ。どれだけケアして誤魔化してもいつかは荒れちゃうし」
「もう少し詰めたいところですが話を本筋に戻します。輝祈様は……」
「ハダリーも一緒!」
移動する嵐に話を遮られて下げた頭を再び上げたハダリーに頷きを返し、手に持っていた物を取り上げる。
「その話は本人から聞くまで聞かないでおくよ」
「分かりました。行きましょう星海様」
ドアを閉めて去って行った喧騒の余韻を感じながら、堪えられない笑みで口角が勝手に上がる。
「なんか、死ぬ前みたいだなー」
当然死ぬはずも予定もない私は心地よい疲れで体がだるくなり、腰を下ろしてゆっくりと床に寝転がる。痛む腰を労りながら白い天井を見上げてると、火が消えるみたいに意識が消えていった。
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