第3話

 家から車で30分の道を経て、春から輝祈のお世話になる学校に到着する。

 想像以上の人の多さに少し怯える星海は珍しく手をがっちりと掴んでいる。その手を軽く握り返して輝祈を探して辺りを見回していると、見るからに今風のギャル集団に取り囲まれる。


「あの、べるさんですよね!」

 その中のひとりが聞いてくる。


「うん、何で知ってるの?」

「えやば! 本物!」

「めっちゃ若い!」

「ほんとに女の人みたい!」

「モデルみたい!」


 あまりの温度差に付いて行けずに暫くにこにこしていると、騒ぎが人を呼び始めて他の生徒や保護者の方にまで囲まれる。


 咄嗟に星海を抱き上げて輝祈を探すのを再会しようとするも、大きくなっていく輪に身動きが取れなくなるも、逆に来るはずもない輝祈を探しやすくなった。


「鈴華さんここの卒業生として来たんですか?」


「それもあるけど娘の入学式で……」


「え! 雑誌では31歳って書いてあったけど」


「じゃあ16で子ども出来たってこと!? 俺の親なんてもう47だよ」


「31でも鈴華さんは20前半! 実物ほんとやばい!」


「あははっ……どうしよ、輝祈に怒られる」


「輝祈ねぇ!」


 囲まれている間にも辺りを探してくれていた星海が指さした方を見ると、遠くから2人の子と一緒に居る輝祈が校舎の陰からこっちを渋い顔で睨み付けていた。。


「輝祈!」


 大きな声で輝祈に手を振って進もうと移動すると同時に大きな輪も一緒に移動し、輝祈が2人の子と一緒にどこかに消えてしまう。どこかに行くと分かったのか、高校生たちの要求と質問攻めは激しさを増し、ツーショットをせがまれたり、腕の中の星海に興味を持ったりして完全に頭がパンク寸前だった。


「入学式が始まるので体育館の中へ移動をお願いしまーす!」


 拡声器越しで女性の声が辺りに響き渡るり、ざわざわしていた高校生たちの意識が新しい生活に向き、さっきまでの勢いが嘘のようにそわそわと期待に満ちた顔で体育館に入っていく。


「そこの元問題児ー、また騒ぎを起こして謹慎になりたいのかー?」


 人混みが流れていってあらわになった向こう側から冗談半分で茶化すように言ったのは、在学していた時に担任を2年間持ってもらっていたあり先生だった。右手を上げるだけのフランクな挨拶を互いに交わし、ゆっくり歩いて有馬先生に近付いて行く。


「よぉ、久しぶり鈴華。結婚の報告はあったけど、いつの間にあんな大きな子どもが居たんだよ」


「あ……っと。報告忘れてて」


「まぁ事情があるのは何となく分かる。無理せずにいつでも頼って来い。仕事と子育ての両立は大変だろ」


「仕事は自分のやりたいことなんで子どもたちを優先しますよ。仕事が大変でこの子たちに向き合えなくなったら、いさぎよく量を減らしますし」


「また入院とかやめろよ、世界大会3連覇なんて練習量も過酷だろ」


「世界大会はもう引退です。この子たちには3年間辛い思いをさせてしまったのに何もしてあげられなくて、もう2度と出ませんよ」


「そうか残念だな。とりあえずはおつかれ。まぁ今日はせっかくのおめでたい日だしこんな話は無しだ。娘が入学するんだろ?」


「はい、うちの輝祈をよろしくお願いします」


 有馬先生は居心地が悪くなったのか、暗い話を早々に切り上げて輝祈の話題に移る。


 鈴華も無意識に下がっていた頭を上げると、丁度輝祈と一緒にふたりの子が目の前を通る。


「あ、輝祈。行ってらっしゃい」


 一緒に歩くふたりは振り返って何かを輝祈に言うも、当の本人は見向きもせずに歩き去って行く。


「元気な娘さんだな」


「元気だけは私と似て」


「気性難だな。まぁ行くか」


「根は真面目な良い子ですー」


 周囲が安全になって星海をようやく下ろして手を繋いで歩き、会場入りが1番遅かったため、大勢の人に見られながら来賓席に身を低くしながら座る。

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