閑話休題 いつかの教室
五限目の講義は戦術基礎だった。
教務士官は三十代だろうか。その若さは飛竜騎兵という兵科の歴史の浅さを物語っている。
その浅さ故、他の兵科──陸軍の大黒柱たる歩兵や花形たる地竜騎兵からは忌み嫌われていた。
曰く、『地に足がついてない方の騎竜兵』。
まあ、それも仕方ないよな。と、窓際で陽気を楽しむその学生は考えた。
新しくでてきた兵科が良い顔をされないのは歴史の常だ。なにしろ、自分らをそうみている内の一つである砲兵だって、四〇〇年前は同じ目に遭っていたのだ。
それに、飛竜騎兵はうまれてこのかた実戦を経験していない。
この十五年、目立った戦争は起きていなかった。
国内の治安維持にたまに駆り出されるだけの兵科が、年貢の無駄遣いと罵られるのも無理はない。実際そうなのだ。
「──であるが、シルヴィウス候補生」
「はい」
唐突な指名に学生、ヤーゼフ・シルヴィウス少尉候補生は起立した。
「飛竜騎兵が実戦にて用いられた場合、予想される変革、またこれからの士官に求められる能力とはどのようなものであるか」
話が面白いことに定評のあるこの教務士官は、昼食後の学生たちを苛めることにしたようだった。
無論それは、いかなる時も判断を繰り返さなければならない士官を教育するため、必要ないじわるである。
「飛竜騎兵の登場により、戦場の立体化、三次元化が予想されます。それに伴い野戦士官には、今まで以上の状況想定力や、空間認識能力が求められます」
「よろしい。シルヴィウス候補生、着席を」
講室中からの注目から解放されたヤーゼフは、日向の楽しみを再開する。
講義を聞いていないわけではない。
実際、ヤーゼフは食後の睡魔を捻り潰し、講義要点の整理もこなしている。
その要領の良さこそ、席次第七位の秘訣だった。
魔王とその外務院に勤める役人たちが周辺国の外務官たちと仲良く血反吐を吐いて築いた均衡情勢は、いまだ崩れていない。
この情勢はさすがに一〇〇年は持たないだろうが、あと二〇年はもって欲しいなとヤーゼフは思った。
僕はできればのんびりやりたいんだ。
窓の外に留まった小鳥に無言で語りかける。
彼のその夢が破音と共に崩れさるのは、これより六年あとのことだ。
窓外を見て呆けているシルヴィウス候補生を見つけ、教務士官が笑顔で投げた
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