2-3 バルヴォワ狙撃の裏側

 陽が沈みかけた頃、捕虜を一カ所に集め、魔銃の適性確認が行われた。魔銃を使う資質のある者は勧誘に応じれば、身辺調査と一定期間の訓練の後に仲間になる。資質のない者は解放されるはずだった。だが、十二番隊副隊長が捕虜の一人を焼き殺し、さらに配下にも攻撃命令を出したため、一方的な虐殺が始まった。


「バーン副隊長の悪い癖だ……。――魔銃展開」


 捕虜を包囲していたキーシュは松明を地面に突き刺すと、魔銃を展開した。狙撃銃に変化した魔銃を構え、大口径魔力弾を放った。たとえ命中しなくても衝撃波だけで射線上にいる者を昏倒させることが可能だ。キーシュは後の仲間かもしれない捕虜達を、無血で制圧しようと試みた。だが、眼前では既に胴を離れた頭や四肢が血飛沫と共に飛び、黄砂を赤く染めている。


「どいつもこいつも律儀に命令に従いやがって……。いや、怯えているのか?」


 新しい概念による武器だからか魔銃適合者は若者に多い。そのため、銃士隊はラガリア王国の兵士に比べて平均年齢が低く、総じて戦闘経験が浅い。元々他隊におり皇国内のモンスター討伐作戦に多く従事したキーシュの目から見て、大半の者は明らかに浮き足立っていた。赤子と大人以上に戦闘力は開くというのに、銃士達は必要以上に強力な攻撃を放つ。魔銃使い同士の模擬戦闘は経験していても生身の人間と戦ったことがないから加減を知らないのだ。返り血の熱さに驚き冷静さを欠いた者は、相手が絶命して倒れても、まだ起き上がってくるかもしれないと疑い、攻撃の手を止めない。


「みっともない。みっともないぜ……」


 キーシュは淡々と狙撃銃で周囲の捕虜を気絶させていく。ただ、彼ほどに冷静な者は少なく、広範囲への攻撃が繰り返されたため、倒れた捕虜は悉く巻き込まれてそのまま意識を取り戻すことはなかった。ともあれ、血に酔わないだけの冷静さがあるキーシュの視野は広く、戦場の隅々にまで気を配る余裕があった。


(さて、バルヴォワやガゴズが敵と内通しているとしたら、今が好機だが……)


 捕虜が一通り片付いたとき、キーシュはバルヴォワの不審な行動に気づく。広場の隅にある木の前にしゃがみ、捕虜の懐に何かを隠している。これはキーシュの勘違いで、実際にはバルヴォワの肉体に意識を移したアッシュがユシンの形見を回収していたのだ。


(死んだフリをした敵兵士に、何かを渡した? まさか、先ほど紛失騒ぎがあった魔銃か?!)


 同じ場面を目撃した、ドミルがバルヴォワに近寄っていく。顔つきだけでなく忍び寄る姿さえ盗賊であるためキーシュは苦笑するが、直ぐに目を疑った。二人が何かしら会話した後、バルヴォワがドミルの腹を爪で貫き、高速機動でバーンを襲撃したのだ。


「バルヴォワ、裏切ったのか!」


 キーシュはバルヴォワを狙おうとするが、長距離狙撃用の狙撃銃では、バルヴォワの速度を追尾しきれない。キーシュの魔銃には、目標の速度と方向から未来位置を予測し、自動で弾道を変える能力がある。その能力を駆使しても、バルヴォワの姿をスコープ内に捉えきれない。


「駄目だ。速すぎる! ……これは!」


 意識を右目に集中したキーシュは、バルヴォワの頭部が魔力光を薄く発しているのに気づく。銃魔術の『誘導トレーサー』だ。『誘導』には魔力弾を誘導する効果がある。刺された直後のドミルがバルヴォワに気取られず、かつ、狙撃兵のキーシュになら気づけるように使用したのである。


「腕や脚ではなく頭部に? 殺せということか? 裏切りの証拠となる決定的な何かを見たんだな、ドミル!」


 体を貫かれたドミルは薄れゆく意識の中でバルヴォワの「俺はアッシュだ」という呟きを聞いていた。ドミルはバルヴォワが裏切り者だと確信し、最後の力を振り絞って『誘導』を使ったのだ。融通が効かないが、生真面目で訓練どおりに行動できる相棒を信じて。


「信じるぞ、ドミル!」


 キーシュは細いしなやかな指でトリガーを引き、必殺の12.7x99㎜魔力弾を放つ。

 ――命中。そして、その体はアッシュの意識に乗っ取られた。

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