1-8 アッシュはバーンを強襲する
「ぐっ……。バルヴォワ、何を……」
「俺はアッシュだ」
アッシュはドミルが倒れないように、右腕を肩にまわして立ち位置を変える。広場の端にいる二人に注意を払う者がいたとしても、会話しているようにしか見えないだろう。
周囲を見渡す。僅か数分で捕虜は半数以上が殺された。いや、銃士が暗がりでの同士討ちを避けるために発砲を控えたため、半数近くが生き残っている。
「見つけた……! バーン・ゴズル!」
五十メートル程離れた位置で、赤い甲冑を血で濃く染めた男が捕虜を切り刻んでいる。いたぶられる捕虜の体は、甲冑を纏ったかのように生々しい赤色に濡れていた。
「どうやら神が奇跡を起こしてくれたらしいな!」
アッシュはドミルの体を捨て、バーンに向かって駆けだす。一瞬だけ出現した足の爪が大地を深く突き刺し、脚部の力を余すことなく地面に伝え、初動から最高速に到達。たった一歩の踏みこみで十メートルの距離を超える。背後で生じた乱気流すら置き去りにしかねない勢いは、体の持ち主バルヴォワにとっては馴染んだ加速度であった。
「この体! 俺の意のままに動く!」
右手を掲げるとアッシュの意思に応じて
「なんだ?! バルヴォワか?!」
「バーン・ゴズル!」
アッシュは最高速のままバーンの頭部目掛けて拳を振るう。装着型魔銃の爪なら、バーンの甲冑を貫けるはずだ。相手が並の魔銃使いであれば必殺の距離とタイミングであった。だが、バーンは攻撃が命中する寸前で右側へ回避し、バックステップしつつ魔力の弾丸を連射してきた。アッシュは地面を蹴って強引に軌道を変えて回避。一瞬の交差で生まれた空気の流れが、周囲の炎を巻き上げて影を舞踏会のように揺らめかせた。バーンに弄ばれていた捕虜は、なぶり殺しからは開放されたが、もはや逃げる体力も残っておらず、血まみれの手足を振り倒れた。
「くそっ。今のを避けるのか!」
アッシュの肉体に残る記憶は、既に勝機を失ったと警告している。不意打ちで倒せなければ、万が一にも勝ち目はない。バーンの8.4x25㎜魔力弾はバルヴォワの6.8x14㎜魔力弾よりも破壊力が大きい。そのため、バーンの魔力弾はバルヴォワの魔力防壁を貫通する。バルヴォワの魔銃が覆っているのは両腕と両脚のみなので、胴体部に直撃弾を浴びれば一撃で致命傷になる可能性が高い。
広場中央付近の雑踏を避け外周を駆けると、アッシュは木を蹴り倒し反動で急ターン、再びバーン目掛けて加速。足は接地の瞬間に爪が出現して大地を抉り、土を巻き上げ僅か二歩で百メートル進む。図らずもかつての仲間の死体を脚部甲冑で踏みつけて粉砕してしまうが、気に病む余裕はない。敵を倒すことこそが、手向けになるはずであった。
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