蓄積アズナは恐怖する
「次の方、どうぞ〜」
ドクドクと鳴る心臓はいつにもましてよく響いた。
ここで人生が決まる。
そう言っても過言ではない。
テレビでよく見るコメンテーターがそう言ってたんだからそうなんだろう。
”ロクサイ”がいいヤツは人生の主役になれる。
平凡なヤツはモブになれる。
わるいヤツの扱いなんて考えたくもない。
そんな一文にすらならないことを考えている内に、あと二人、あと一人、
「おめでとうございます!」
何ということもない受付嬢のお決まりのセリフだが、どうやら今回は違うらしい。
僕の一つ前に呼ばれた自信家のような、中学校のときのいじめっ子に似た少年に向けての一言だった。
全体の暗い空気が変わり、少年を称賛する声が聞こえた。
他人の幸福を自分のことのように喜べるのはすごいことだと思うが、まだ何も出来てない自分への期待に満ちた視線を向けるのは辞めて欲しい。
「次の方どうぞ〜」
こころなしか嬉しそうなその声は、さっきの少年から連絡先をもらったからではあるまいな?仕事しろ。
受付嬢に案内された場所は至ってシンプルな温もりのある白い部屋だった。
異様に感じた点は窓が存在しないことであろう。
ポツンと置かれた怪しく光る透明な板が置いてあった。
如何にも手を置いてくださいと言っているような跡がついていた。
「やはり、第六才能視覚化板が気になりますか?」
初めて見るロクサイ異物に興味が沸かないわけがない。
「改めて、一度説明しますね。まず、第六才能、通称”ロクサイ”についてです。ロクサイは、必ず15歳以内に発現されるという五感の次の才能と言われるものです。基本は干渉系・操作系・吸収系・放出系・顕微系の5つに別れ、極稀に特殊系と呼ばれるものもあります。これらの才能にランクが1〜7まで存在していると言われています。また、才能は、その人に親和的な属性が使えます。才能のランクは努力次第でどうにか出来ますが、属性の親和性は先天的なものだと言われています。そして、才能の数は、基本一人に一つですが、稀に複数持っている人もいます。先程の人のように。」
ここまではネットで情報を集めたときにわかった内容だ。
後、簡単に他人の才能の情報を漏らすなよ。
「次に、ロクサイ異物ですが、ロクサイによって生み出された物のことです。人が作った物も有れば、自然に生み出されたものも有ります。基本的にロクサイ異物は貴重で、国によって管理されているのが殆どです。貴重という理由によって、ロクサイ異物中心の社会ではなく電気が主流になっています。」
ロクサイ異物の写真は未だに出回ってない。
この部屋に入る前にスマホを取り上げられたのはそれが理由だろう。
テレビの取材も入って来ないらしい。
「一応名前を確認しておきますが、蓄積アズナさん15歳、でよろしいですね?」
僕の鼓動は、ピークに達したらしい、苦しくて上手く呼吸が出来ない。
「それではこの板に手を置いてください。神のご加護を」
それからほんの数秒だった。
注射を思いだすような速さだった。
「板に書かれた文字をご覧下さい。」
そこには2つの才能と一つの属性があった。
「放出と吸収の双方才能ですね。おめでとうございます!」
いつの間にか勝手に覗いていた受付嬢のセリフには嬉しさで嫌悪感がなかった。
これで僕も人生の主人公になれると考えたら悪い気分ではなかった。
「ですが、吸収のランクが極端に低いですね。」
僕の心臓はまだまだ休めないらしい。
タメテダス @komeri15
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