第3話 再開、そして捕縛。
「・・・うっ、寒」
時折吹いてくる夜風に震えながら今か今かと航空艇を待ちわびます。
防寒着を突き抜けて肌を刺す寒さが辛い。
そんな中冷たい、体を温める成分が入っているという砂糖菓子を頬張り、必ず航空艇を写真に収めるのだという確固たる意思をもってカメラを握り直しました。
「・・・ん?あれは?」
どこかで見た様な、闇の中でも存在感を放つ黒髪。
そして、勝気な印象を受ける目をもった美人は確かに以前私を助けてくれた女性だった。
相当な機密情報の筈の航空艇を待っているのか、それともただ通りすがっただけか。
いや、辺りに人がいないか警戒しているところを見る限り前者である可能性が高いな。
「・・・にしても綺麗な人だな」
凹凸に富むとは言い難いが長身で、少しボサついた長い髪も彼女の魅力を引き立てている。
いかんいかん。今は仕事だ。
写真を取るには暗すぎてフラッシュを焚かなければいけないからチャンスは1回こっきり。
どうせなら航空艇と魔女の一人くらいは撮りたい。
私がそう心の中で意気込むと目の前の状況に変化が訪れました。
巨大なプロペラの駆動音を撒き散らしながらこれまた巨大な物体が雲を掻き分け姿を現します。
「・・・すっげぇ」
思わず口調が乱れてしまいました。
私が逃すまいと改めてしっかりカメラを握ると航空艇から一人の少女が降りてました。
「やほー、パルムちゃん」
「・・・ただでさせ魔法も煩いのに、声まで五月蝿いとは。どうにかならないの?」
・・・あの人の名前、パルムっていうのか。
それに、あの少女が啓蒙の魔女?
「どうにかはならないかなぁ。私の思考や感情、言葉を共有したい人とするのが私の、共有の魔女としての魔法だからさ」
共有の魔女・・・やはり私達の魔女に関する情報は氷山の一角だったのか。
パルムさんが肩を竦めた。
「傍迷惑な魔法だ」
「それはお互い様でしょ?他者の意識を捻じ曲げたり、対象に関する他者の記憶を抹消するだなんて」
「そんなに便利な力では無いが、お前の言葉を借りるならそれが私の、絶縁の魔女としての魔法だからな」
パルムさん・・・魔女だったのか。
今まで市井に回って来なかった新たな魔女の情報。
今まで見る事の無かった航空艇の外見。
それを収めた写真を、今、撮った。
焚かれるフラッシュ。
魔女達の意識がこちらに向いたのが分かる。
私は全力で駆け出しました。
私がいた反対側の勝手口から倉庫を脱出し、あえて狭く、通りづらい通路を選んで右へ左へ出来るだけ通った道が直線にならない様に心がけて走ります。
捕まったらタダでは済まないというこの高揚感、たまりません。
「・・・パパラッチ最高っ!」
気分が上がり、体をだんだんと軽くなってきた頃、異変は起こりました。
「あれ、何してたんだっけ」
”今どうするべきなのか”、”何から逃げていたのか”不意に分からなくなってしまい、その足は止まりました。
「・・・カメラに隠れ撮り時用の服、よく分からないけど、この服着てて逃げてたって事は・・・とりあえず逃げなきゃ」
何だかよく分からないが逃げようと再び歩を進めようとすると私の視界は暗転した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
恐らくカメラのフラッシュだと思われる閃光が闇の中にいた私達を眩く照らした。
「・・・っ!」
何者だ。私がここで待っている時は気配も”縁”も感じなかったのに。
「・・・珍しいね。パルムちゃんがしくじるなんて」
共有の魔女、ハルネの声色に先程の様なおちゃらけた様子は無く、真剣そのものだった。
「すまない。十八人は払ったんだが・・・油断していたかもしれない」
「いいよ。パルムちゃんに仕事を任せるのを嫌がる人達はいても、魔女の中でパルムちゃんの実力を認めていない人なんていないから。パルムちゃんは悪くないよ。私だって共有できる生命体がいるなら気付く筈だし」
ハルネはため息をつくと口に手を当てた。
彼女が魔法を使う時の動作。
「ミチルちゃん。ちょっと来て」
「はいよ」
ハルネが呼びかけると辺りの闇から直ぐに現れた。
そして、こちらを一瞥すると舌打ちをする。
「ちっ・・・絶縁の魔女かよ」
「影の魔女か。てっきり私の事を覚えていないと思ったよ」
「・・・あんだけの事されて忘れるかっての」
私と影の魔女、ミチルとの距離が近づきお互いに睨み合う。
彼女とはそういう間柄なのだ。
「はぁ、そんな事は良いからさぁ、私達の事隠し撮りしたパパラッチ捕まえてきて欲しいんだけど」
ハルネの言葉にミチルは私を見てから言った。
「こう言うのも癪だけど、そんなの絶縁の魔女の方が合ってる気がするんだけど」
その言葉にハルネは肩を竦める。
「・・・普通の相手なら断然パルムちゃんなんだけどね。どうやら”素質持ち”みたいなんだよ。私もパルムちゃんも”繋がれなかった”し、私達”介入系”にはちょっと荷が重いの」
「成程。それなら任せといて」
そう言って影の魔女は消えて行った。
「・・・一応パルムちゃんも手助けはしてよ」
「勿論」
そうして、何とか介入したパパラッチの精神から航空艇に関する記憶を消し、危なげも無く影の魔女が捕まえてきたが、私はそのパパラッチの顔を見て少し驚いてしまった。
「まぁ、後は君次第だ」
きっと彼は、いや、彼女はこれから多くの魔女によってその精神から記憶、半生に至ってまで調べ上げられるのだろう。
「・・・悪くは思わないでくれよ」
パパラッチ一人にそれだけの措置を施さねばならない程、魔女達は危機を感じているのだ。
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