第3話 憧れ
香織には憧れているものがあった。
それは成人式で着る振り袖だ。
鮮やかな色の綺麗な振り袖を着て成人式に行くことが憧れであり、夢でもあった。暇さえあれば必ず振り袖のサイトをみているほどだった。
恐怖から逃れるように家に帰ると、母親がパートから帰って来ていた。
「おかえり~。どうしたの?そんなに慌てて。」
不思議そうな顔で聞いてきた。
「何でもない。その、、トイレ行きたくて」
我ながらなんて言い訳だろう。
「もう、小さい子じゃないんだからトイレくらい学校とか、何処かお店で借りなさいよ。まったく。あ、それと、あんたが楽しみにしてたカタログ届いてるわよ。」
その言葉にさっにまでの恐怖心が消え、一気に心が弾んだ。
「本当に!?何処に置いたの?」
「あんたの部屋に置いといたわよー。」
それを聞いた香織は急いで2階へと上がっていった。
「これも可愛い~。」
楽しみにしていたのは振り袖のカタログだった。ページをめくるたび可愛い振り袖姿の女の子たちがポーズをきめている。
「うーん、シックな感じもいいなぁ。」
自分なら何が似合うかを想像しながら、ページをめくった。
「これ!すごく良い!!」
赤い生地に花の刺繍がちりばめられた可愛らしいものだった。
「絶対こ……れ…」
また脳裏に映像がみえる。
ベランダのような場所、たくさんのゴミの中に小さな足。高い場所なのか手すりの下に赤い振り袖を着て歩く人がみえた。
「…な、何?」
嫌な気分になった。心のなかに黒くドロッとしたものが染み込んでくる。
ドク、ドク、ドク、ドク…
心臓が震えるように脈打つ。
不安と恐怖に一瞬にして包まれた気がした。
「最悪!」
嫌なものを振り切るように声をだし、窓に近寄って外をみた。あの男がこちらをみている。
(絶対、あいつのせいだわ)
あの時話しかけたのを心底後悔した。
「呪いとかじゃないわよね」
さっき感じた嫌な気分がどんどんと思考をネガティブにしていく。
(ダメ!ダメ!しっかりしなきゃ!)
なんとか自分を奮起させて、嫌な気持ちに蓋をした。そして途中だったカタログを見ようとしたが、楽しめるわけもなく香織はため息をついた。
終わり
あの日の君に 卯瑠樹 夜 @UKIYORU
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