第2話 接触
香織は空き教室で大学受験の模擬テストを受けていた。これは受験前の成績が悪かった人への救済処置で、香織の高校でのみ実施している取り組みだ。
(あ~全然わからない…)
もともと成績は中の上くらいで、志望大学も余裕だったのだが、あの男が現れてから成績も少しづつ落ちはじめていた。存在に慣れたと言ってもやはり気になる。今も窓の外には校門のそばに立つ男がいる。そんな状態で勉強に集中できるはずもなく、香織の成績はみるみるうちに下がっていった。
テストを終え、自分の教室へ戻る途中あの男が見えた。校門のそばに立っていたはずの男は今は香織の位置からよく見える木の側に立っている。そうやって必ず目の届く場所に男は現れる。
(一体なんなのよ!)
あいつが現れる前はこんな風に昼休みを潰してテストを受ける必要はなかった。香織の中にふつふつと怒りが沸き上がってきた。
(一言文句いってやる!)
そう思い、遠くで見ている男に声をかけようとした時だった。
「香織~お疲れ!どうだった?」
友達の志保がそう声をかけながら迎えにきた。
「しっ志保!?…うん!まぁまぁかな。」
「どうしたの?校庭の方なんか見て、何かあった?」
他の人には見えない男に声をかける所など見られたらたちまち変人呼ばわりされる。そんなのは嫌だ。
「何でもないよー。仮テスト私1人だったし、ちょっと疲れちゃっただけ!」
とりあえず適当に誤魔化した。
「そっか~。てか先生も昼休み潰すとかマジで鬼じゃん」
「本当に!勘弁してほしいよ。」
なんとか怪しまれることなく話がそれた事にホッとしつつ、あの男をチラリとみると
変わらず木の側に立ちこちらを見ているのだった。
キーンコーン、カーンコーン
下校時刻を知らせるチャイムが鳴る。
「志保!帰ろ~」
「ごめん!今日急にバイト入っちゃってさ、本当にごめんね。」
「そっかぁ~残念だけど仕方ないね。
じゃあ、また明日ね!」
唯一、帰り道が一緒の友達に断られた香織は久しぶりに1人で帰ることになった。
(1人になるのなんだか変な感じ。最近ずっと志保と帰ってたもんな~)
スタスタと家までの道を歩いていく。
学校から家までは歩いて30分ほどだ。
(近道して帰ろ~っと)
香織は細い裏路地に続く道へとはいっていった。そこは表通りとは違い人通りがほとんどなかった。
(相変わらず不気味だわ)
通ったことがある道とはいえ、1人では少し怖く感じ、急ぎ足になる。が、ふと前をみると3~4メートル先にあるゴミ箱のすぐ横にあの男が立っているではないか。
(ちょ、勘弁してよ…)
引き返そうと後ろを向いたが、昼間、テストを受けた事を思いだした。周りを見渡すと人はいない。話しかけるなら今だ。
(やっぱり怖い…で、でもずっとこのままは嫌だし!)
勇気を振り絞り香織は男に少しだけ近づくと声をかけた。
「あっ、あ、あなた。一体なんなの!?人のことつけ回して!」
怖くて顔をみることはできなかったが、言いたい事は言った。だが、男の方は黙ったままだ。
「ねぇ!聞いてるの!?」
香織の声だけがむなしく響く。
(なんで答えないのよ~怖いじゃない…)
少しの間をおいて男が何か言ってきた。
「コ…コ……ニ……イ……∂(∌℘>℘∀∈'∇」
が最後が聞き取れない。
「意味わかんない!」
恐怖に耐えられなくなった香織は男の目の前を猛ダッシュで駆け抜けた。その時だった。
ゴミの悪臭に混じって微かに甘い匂いがした。
(?…香水のにおい?)
あの男がつけているのだろうか?幽霊が香水?そんな話は聞いたことがない。香織は不思議に思いながら通り過ぎた男の方をふりかえった。
(…でも、あの甘い匂いどこかで…)
思い出そうとした瞬間、香織の脳裏に鬼の様な形相の若い女が手を振り上げる映像が見えた。
(!!な、なに?いまの…)
男に目をやると今まで見ていなかった顔がハッキリと見えた。整った顔つきだがやはり顔色は悪い。あれは死んだ人のそれとよく似ている。
「なんなのよ!もう!」
急に浮かんだ女の映像と今まで見えなかったハズの男の顔を見てしまった香織は混乱と恐怖に襲われ、次は振り返ることもせず急いで家に帰った。
終わり
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