第三十七話「爆勝王キングビクトリー」

 美しい森林公園の木々をなぎ倒しながら、サメの頭を持つ巨大怪人と巨大ロボが殴り合っていた。


「メガロドンキーーーックッス!!」

『なんの! アルティメットヴィクトリースラッシュッ!!』


 たがいの攻撃で激しく火花が散るたびに、湖面が荒々あらあらしく波打なみうつ。

 その迫力たるやまるで神々かみがみの争いであり、無力な人間はただ逃げまどうしかない。


「うぎゃあーーーーーッス!!」


 極悪怪人デスグリーンと化した林太郎の頭上を、巨大な影が通過した。

 キングビクトリーの激しい攻撃により、牙鮫きばざめ怪人サーメガロがふっ飛ばされてしりもちをつく。


 その衝撃たるやまるで小隕石しょういんせき衝突しょうとつであった。

 大地が大きく揺れ、アスファルトにひびが入る。


「アニキぃぃぃ、やっぱり強いッスぅぅぅ」

「だから言わんこっちゃない! サメっち、相手をよく見るんだ!」


 数十メートル上空からサメっちの弱音よわねが聞こえる。

 だが林太郎は、今日のキングビクトリーが本調子ほんちょうしではないことに気づいていた。


 キングビクトリーは搭乗者とうじょうしゃの勝利への執念しゅうねん、すなわち勝利パワーを原動力げんどうりょく変換へんかんしている。

 当然のことながらひとりよりもふたり、ふたりよりも五人フルメンバーのほう出力しゅつりょくも増加する。


 いまのビクトレンジャーは林太郎が抜けたことでひとりけている上に、比較的ひかくてき軽傷けいしょうなレッドを除いて半死半生はんしはんせいもいいところだ。

 その証拠に必殺技たる『アルティメットヴィクトリースラッシュ』で必殺・・できていない。


「サメっちいけるぞー! 相手はむしいきだぞー!」

「うおお燃えてきたッスぅぅ! サメっちの得意なフィールドに引き込んで、息の根を止めるッスぅぅ!」


 大きな水しぶきとともに湖へと飛び込むサメっち。


「おりゃあーッス! 必殺フカヒレカッターッス!!」

『ぐわーーーーーッ! なんのこれしきーーーーーッ!!』


 サメっちは湖の水を吸い上げ高圧水流のやいばを放った。

 無尽蔵むじんぞうの刃が、出力不足のキングビクトリーをおそう。


 深さとしては腰あたりまでしかないものの、まさに水を得た魚もといサメである。

 水棲すいせい怪人は水の多い環境下では無類むるいの強さを誇るが、サメっちもその例にれないということなのだろう。


 巨大化した怪人がロボに勝つという歴史的勝利は、もはや時間の問題かと思われた。



 ピピピポポポピ!



 そのとき林太郎のギアが、通信を知らせる電子音を響かせた。


『はろー、わしじゃよ林太郎。わしのカワイイ声がけてうれしかろう』

「その声は、タガラック将軍!?」


 通話の相手はアークドミニオン三幹部さんかんぶのひとり。

 “リアル美少女受肉じゅにく金髪碧眼きんぱつへきがんのじゃロリ博士はかせ”こと絡繰からくり将軍タガラックであった。

 ちなみに林太郎は彼女のことを心の中で、設定のお子様こさまランチと呼んでいる。


「なんの用ですかこのいそがしいときに。といってもそろそろ決着がつきそうですが」

『むほほ、そりゃ決まっておろう。おぬしらがいま戦っておるキングビクトリーがあるじゃろ? それについての重要なことをおぬしに伝えねばならんのじゃ』

「なんですって?」


 いつもの軽い調子ではなく、タガラックの声は真剣そのものであった。

 まさかキングビクトリーには、林太郎も知らない秘密が隠されているのだろうか?

 だとすれば対峙たいじしているサメっちが危険だ。


『じつはな……』

「じつは……?」


 林太郎はゴクリとつばを飲み込んだ。


『キングビクトリーをわしのコレクションに加えたいんじゃが、なんとか無傷サラピンでゲットできんもんかのう』

「…………はい?」

『おぬしも知っとると思うが、わしってば超強いじゃろ? いままでわしがつぶしてきたヒーローチームのロボなんじゃけど、じつは全部基地の地下にコレクションしとるんじゃ。そこにキングビクトリーを加えたいと思ってのう』

「……切りますよ?」

『ああ、待つのじゃ! かわりになにが欲しいんじゃ? 金か? 金ならいくらでもあるぞ! なんぼじゃ! なんぼ欲しいんじゃほれ、言うてみい!』


 林太郎はなにか重要なことを言いだすのかと身構みがまえていたが、無駄に終わった。

 タガラックはただ私利私欲しりしよくのためにキングビクトリーを手に入れようとしていただけである。


「俺ならともかく、やりあってるのはサメっちですよ? そんな器用きよう真似まねできるわけないでしょう」

『なぜじゃ!? 今のキングビクトリーはメタクソに弱っておるのじゃろう? こんなチャンス滅多めったにないじゃろがい!』

「そりゃまあ、サメっちでも勝てそうなんだから、チャンスっちゃあチャンスですが……」


 そこまで言って林太郎は、自分の言葉にハッとした。

 キングビクトリーは何故あんなボロボロの状態で戦っているのか。


 ずっとそこが引っかかっていたのだ。

 キングビクトリーがサメっちひとり相手にあれほど苦戦しているというのは、まさに異常事態なのである。


 考えてもみよ。


 本来ほんらいであればデスグリーンとサメっちを同時に相手取り、二対一にたいいちでの戦闘をいられてもおかしくない場面ではないか。

 いや、あっという間に退場したが、パニックダイルさんもふくめれば、あの場に怪人は最低でも三たいはいたことになる。


 そして怪人が複数体いるということを、彼らは事前に知っていた。

 知っていたからこそはぐれ野良のら怪人をわざとおよがせ、待ちせして奇襲きしゅうをかけてきたのだから。

 もし旗色はたいろが悪いのであれば、ずっと湖の中に隠れていればいいのにもかかわらず。


『おーい林太郎? 聞こえとらんのか? おぉーい!』

「待てよ……まさか……俺はなにかを見落としている……?」


 相手にとって有利なフィールドでは戦わず、まず勝てる状況を作り出してから勝負を挑む。

 それは林太郎自身が幾度いくどとなくり返し勝利を得てきた基本的な戦いのプロセスだ。

 こま同士どうしの戦いは、描いた勝利を実現させるための後処理あとしょりに過ぎない。


 ならばいま彼らヒーローがやっていることは、正真正銘しょうしんしょうめいのバカがすることだ。


 イエローとレッドはかつて一度怪人化したサメっちと戦っている。

 “水棲生物すいせいせいぶつがたの怪人”であるサメっちの存在だって知っていたはずだ。


 なのにわざわざ傷ついたビクトレンジャーを招集しょうしゅうしてまで、この水源すいげん豊富ほうふ狭山湖さやまこで勝ち目の薄い勝負を挑むだろうか。


「いや、そんなことが……考えろ考えろ考えろ……」


 彼らヒーローは義憤ぎふん仇討あだうちなどではなく、勝利のために戦う。

 ビクトレッドは確かに「デスグリーンを倒す絶好ぜっこうの機会」と、そう言った。


 ならばたとえ湖というサメ怪人の得意なフィールドで戦う状況であったとしても。

 たとえここからデスグリーンが巨大化して参戦したとしても、“勝算しょうさんがある”からこそ戦うのだ。


「ちくしょう! そういうことかッ!」


 それらの推論すいろんからみちびき出される結論はひとつ。

 なぜその考えに至らなかったのか、林太郎はくちびるみしめた。


「サメっち、撤退てったいだ!! 今すぐ湖から出るんだーーーーーっ!!!」


 林太郎の叫びがサメっちに届くのと、それはほぼ同時であった。

 湖に半分ほどかったサメっちの足を、巨大な手のひらがむんずッとつかむ。


「うひゃあーーーーーッス!?」


 狭山湖を割り現れた二体目・・・の巨人は、そのままサメっちをジャイアントスイングの要領ようりょうで振り回し放り投げた。


 ズズウウウウウウウン……。


 横っ飛びに投げ出されたサメっちの巨体が、なされるがままに大地をえぐる。


「きゅぅぅぅぅぅッス……」

南埼玉みなみさいたま支部しぶ所属、武士もののふ戦隊ハラキレンジャー! してまいる!! 悪く思うなかれ極悪怪人デスグリーンとその草履取ぞうりとりよ。乱世らんせにありてへいせたるはいくさ常套手段じょうとうしゅだんにござる』


 突如とつじょ現れた二体目の巨大ロボ。

 それに続くように狭山湖からだけでなく、隣接りんせつする多摩湖たまこからも次々と巨大ロボが現れる。


西埼玉にしさいたま支部所属、剛拳ごうけん戦隊ドッセイジャー! ぶっとばすぜえええっ!!』

東埼玉ひがしさいたま支部所属、重厚じゅうこう戦隊シールドバリアン! 守護まもってみせよう俺たちの未来を!』

西東京にしとうきょう支部所属、煌輝きらめき戦隊ロミオファイブ。おどれ、我が輪舞曲ロンド調しらべとともに』


 鋼鉄のボディが水滴すいてきをはじきながら、太陽の光に燦々さんさんと輝く。

 一体ならば畏怖いふを、二体ならば恐怖を、そして三体を超えると見る者に絶望を与える巨大ロボ軍団の出現。

 さながら最終戦争でも勃発ぼっぱつしたかのような、世紀末的せいきまつてき光景であった。


冗談じょうだんだろおい……そこまでやるかお前ら……!?」


 その巨大ロボの数、キングビクトリーをあわせてゆうに八体はちたい

 東京とうきょう埼玉さいたまじゅうからほぼすべてのロボが一堂いちどう集結しゅうけつしていた。





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