第二十三話「元ヒーローの居場所」
ここは日本中のヒーロー組織を
正式名称“
「くっそオオオォォォォ!!! 敵に情けをかけられるなんて!!!」
レッドこと、
「それで?
「申し訳ありません
もはや広い会議室を使う必要はあるのだろうか。
そう疑問に思えるほど、ビクトレンジャーの
しかし、あの戦闘で深い傷を負ったものの、黄色い男は生きていた。
「あやつは弱いふりをしておったのでごわす!
ビクトイエローは全国のヒーローを見ても、頭ひとつ飛び抜けたタフネスを誇っている。
あれだけの攻撃を食らってもピンピンしているというのはさすがであった。
とはいえデスグリーンから受けたダメージは
「さすがイエローだ! 救急車へドクターヘリに乗せられなくて結局ダンプで運ばれたときはマジで死んだと思っていたぞ!」
「わしを
「あのさ、カレー食べながら話すのやめない? 僕の服にも
会議室はカレーのスパイシーな香りで満たされていた。
「これは申し訳ないでごわす大貫司令官殿! デスグリーンめ、必ずリベンジしてやるでごわす! ごっつぁんです!」
十八杯目のカレーをたいらげたイエローは、
「相変わらずとんでもない食べっぷりだなイエロー!」
「……ごっくん、ふう。おかげさまで胃薬が手放せんでごわ……す……す……うっ……!」
次の瞬間、イエローの手から空になったコップが
ギョルルルルルルルルルルルルルルルルルル!
という重機でトンネルでも掘っているかのような音がカレー臭い会議室に響き渡る。
「なんでごわす……? 急に、は、腹の調子が……あっ、おっほおおおおおおお!!!」
「イエローどうした? イエロー? イエロー! イエロオオオオオオオ!!!」
その日、イエローは上司と同僚の目の前で赤ちゃんに戻った。
…………。
ところかわってアークドミニオン医務室。
長身の乙女、
「……
「正確には
「原理はわからないけど……そんなもの人が飲んで大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないから発売禁止になったんでしょうよ」
林太郎の手には毒々しい色のラベルのビンが握られていた。
“四〇〇キロの女性がたった三ヶ月で四〇キロに! 超強力ダイエットサプリ『ネオナイアガラ
「オーバーキルなんじゃないのかそれ……」
「殴ったのはサメっちのぶん、下剤は俺のぶん」
「クリリンのぶんか」
「それ二度と言わないでね……おお、
昨夜の戦闘で林太郎が受けた傷は、思いのほか深い。
ハリテを食らった
だが林太郎には
もちろん魔改造されたビクトリー変身ギアのことだ。
内蔵された“デスグリーンスーツ”はその
当然のことながら、そんな
事実、林太郎の全身をくまなく
「おい林太郎、無理をするな。まだ動かないほうがいい」
「あいにくのんびり寝ていられるご身分じゃないもんでね」
湊に断りを入れて医務室を出ると、林太郎はドラギウス
サメっちは絶対安静と診断されたので今日はひとりである。
…………。
林太郎がはじめてアークドミニオンに
目的の人物は、やはりその
「クックック……フハハハハ……ハーッハッハッハッハ!! ……なんだ林太郎か。まあ待つのだ、要件はわかっておるぞ」
天を
「やはり、わかりますか」
「もちろんだとも。ずばり、ビクトイエロー撃破記念
「いやビクトリー変身ギアですよ! アレなんなんですか!」
林太郎はビクトリー変身ギアを
もちろんそれで“
「うむ、かねてより
林太郎のあずかり知らぬうちに、ヒーロー最大の機密情報ががっつり悪の秘密結社に
「タガラックと色々いじくり回したのだが……。なんかその、
「だからって俺に
「ずっと部屋に放置しておったみたいだから、ちょっとぐらいいいかなって
そう言うと老紳士は
凶悪な
激辛
「一応聞きますが、これ元に戻るんですか?」
「なにゆえ元に戻さねばならぬのだ? 林太郎には必要のないものであろう?」
「そりゃあ……そうかもしれませんが」
ドラギウスの言う通り、ヒーローの道を踏み外した林太郎には、もう必要のないものなのだ。
林太郎は昨夜、ついにヒーロー本部との
だが勝利戦隊ビクトレンジャーという肩書きに、
『極悪怪人デスグリーンが相手をしてやる』
勢いであんなことを口走ってしまったが、林太郎は自身の立場を
なにせ今まで
今日から怪人になります、と言ったところで過去が変わるわけでもなければ、これから未来
それになにより、林太郎はそんな都合のいい自分が
ヒーロー本部と
いまさら彼らやサメっちにどんな顔で接すればいいというのだ。
そんな心の迷いを
「ククク、
「……………………へっ?」
林太郎は言葉を失った。
正体を知っていたのか、などと問い
いや、むしろこの状況で口ごたえができる者など、果たしているのだろうか。
ドラギウスの手はいま、林太郎の肩にかかっている。
ほんの少し指先を動かすだけで、
関東圏で
別れを意味するその言葉の意味を、理解できない林太郎ではない。
「あ、あの……これには深いわけがありまして……」
なんとか声を
もはや目の焦点すら合わない林太郎を、ドラギウスは
そして。
「クックック……フハハハハ……ハーッハッハッハッハ!!」
邪悪な
「そう
ドラギウスはそう言うと、白い眉毛をしょんぼりとハの字にしておどけてみせる。
「言ったであろう。これはビクトグリーンへの
悪の総帥は、その肩書きからは想像もつかないほどに温かな笑顔を見せた。
「我輩は秘密結社アークドミニオンの総帥として、
その老人の姿と声はまるで、十数年ぶりに再会した
もちろん、そこになんの
ただここが、この
さきほどまで恐怖のあまり泣きそうになっていた林太郎であったが、いまは別の意味で涙が
「……いつからご
「
「最初からじゃないですか」
「クックック、“緑の
そんな家電のリサイクルと同じような感覚で
しかしすっかり手のひらの上で
むしろドラギウスの
「怪人組織がヒーローをヘッドハンティングするなんて
「他の組織と同じようなことをしておっては、とっくの昔に壊滅させられていたであろう。“緑の断罪人”にな、フハハハハ!」
「……ええ、当然です」
悪の総帥と元ヒーローはそう軽口を交わすと、互いにニヤリと笑いあった。
このアークドミニオンでならばきっと上手くやっていける。
林太郎はそう確信したのであった。
………………。
…………。
……と。
これで話が済めばよかったのだが。
「まあそれでも我輩以外には
「もちろんそうしますよ。俺だって後ろから刺されたり、寝込みを襲われるのはごめんですから。でも総帥以外に俺の“秘密”を知ってる怪人はいないんでしょう?」
「………………………………」
ふたりの
「………………………………うむ」
「なんですか、いまの
林太郎の頭の中で、
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