17:夢から醒める時
「おい――きろ――おい――」
誰かがルストの体を揺り起こそうとしていた。深く眠りに落ちていたルストの意識を目覚めさせる。
「ん、んん?」
「おい! 早く起きろ! そろそろ行動開始の時間だ!」
ルストにそう強く問いかけるのはダルム老だ。
さらにその傍からドルスが熱い黒茶の入った皮グラスを差し出してきた。
「飲め、目が覚めるぞ」
「ありがと――熱っ!」
思ったよりもお茶は熱かった。
「あっつー! でもありがとう! すっかり目が覚めたわ」
野戦用の外套マントを寝袋代わりに仮眠をとっていたルストだったがすっかり目を覚ましていた。体を起こし立ち上がりながら言う。
「すいません、少し眠り過ぎてました」
「仕方ねえ、ずっと緊張のしっぱなしだったからな。休める時にじっくり休むのも指揮官の務めだ」
ダルムがそう語り、ドルスがうなずく。
「ああ、疲れを残したら正しい判断もできなくなるからな」
だがそこでドルスが問いかけてきた。
「そういやなんかうなされていたみたいだが、何か悪い夢でも見たのか?」
「夢? そうね見たと言えばそうなのかも」
ダルムも訊ねてくる。
「どんな夢だったんだ?」
ルストは感慨深げに憂いのある笑みを浮かべながらこう答えた。
「250年前の国家独立の英雄たちと共に戦う夢よ」
「ほう、そいつぁいい」
ドルスも笑みを浮かべながらこう言った。
「この戦い、きっと勝てるぜ」
「ええ、私もそう思うわ!」
そしてルストは歩き出しながらゆう。
「全体に行動開始を宣言してください。野営を畳んで行動準備に入ります!」
「了解!」
「了解」
そして、ルストは高らかに宣言した。
「これより西方平原国境地帯における抵抗行動の準備を開始します! 全ての行動は遅滞なく行なってください!」
その声が彼女が率いてきたワルアイユ領の市民義勇兵たちに広がっていく。
ワルアイユの独立とフェンデリオルの平穏を守るためにルストたちは行動を開始したのだ。
† † †
それは遥か250年前のとある森林地帯の片隅だった。人目を避け、木々の間に隠れるようにして休息を取っている一団がある。
その数、全てで14名。
屈強な肉体と強力な武器をそれぞれが携えている。それはまるで死線を何度もくぐり抜けてきたかのようなそんな人々だった。
しかし奇妙なのはこの手の野営に必須の焚き火をしていないということだった。それはまるで誰かに見つかることを最大限に警戒しているかのようだった。
そんな彼らが目を覚ましたのは、まだ日も昇りきらぬ深夜のはしくれと言ってもいい早朝の薄闇の中だった。
誰よりも先んじて、目を覚ましたのはその集団の中の紅一点とも言うべき若い女性だった。年の頃は17歳というところだろ。
目はさましたが声は出さない。なぜなら彼らは国家権力に追われるお尋ね者だからだ。彼らは『独立闘争レジスタンス』
母国を失い辛酸をなめているフェンデリオル人の自由と独立のために戦っている人たちだ。
一人が目を覚ますと残りも後を追うように次々に目を覚ます。
そして速やかに次の行動へと移るかのように立ち上がって言った。
その若い女性のリーダーが不意に言葉を漏らした。
「夢を見ていた」
皆の視線が集る。
「250年の時を越えて我々の子孫と共に戦う夢だ」
その言葉を聞いた他の人々もこう言い出した。
「俺もだ」
「俺も」
「自分もです」
「私もだ」
驚いたことに全員が同じ夢を見ていたのだ。
「珍しいこともあるものだな」
「えぇ、ですが」
声を発したのは銀髪の男性だった。
「不快ではありません。むしろ勇気を奮い起こさせてくれます」
「そうだな。これほど喜びと希望に満ちた夢もあるまい」
一呼吸おいてその若い女性リーダーは言う。
「これから夕刻までに目的地にたどり着く。狙いを定めている特別収容所を陥落させることができれば、これまでにこちらの手に収めた施設と合わせて明確な活動拠点を構築することが可能になる」
その言葉に皆がうなずいていた。
「行くぞ。過去の恩讐のためではなく、未来永劫続く〝繁栄〟と〝希望〟と〝自由〟のために」
その言葉を残して彼らは去っていった。
彼らの名は暁の兵団。
フェンデリオル人民を開放し、新たな国家を築き上げる人々だ。
彼らの戦いの日々はこれからも続くのだった。
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