14:戦いⅢ ―タンツ、精術を駆使す―
そして、状況はおおよそ決しつつあった。
ただ一人、フリントロックライフル銃を構えた銃射手を除いて。
一人がっちりとした体格のその男は、屈することなく鉄の意志で目標を撃ち落とそうとしていた。
彼の視界の向こうにはその頭上を通り過ぎようとする狙撃目標が捉えられていた。
位置関係から考えても、その狙撃を阻止するのは困難に思えた。
誰もが諦めそうになるその時、銃射手が引き金を引いた。
「精術駆動! 爆心翔!」
タンツの声がする。それと同時に空中を弾丸のように飛び出してきた。さらに彼は詠唱する。
「精術駆動! 乱れ風車!」
両足を大きく開くとそのまま凄まじい勢いで回転し始める。その状態で撃ち放たれた鉛弾をタンツは弾き飛ばした。
――ギィン!――
火花が散り鈍い金属音が響く。鉛弾はそのまま正反対方向へと飛んでいく。その先にはフリントロックライフルを手にした敵の姿があった。鉛弾は空をゆくプロアではなく、プロアを撃とうとした狙撃犯を打ち倒したのだ。
「お見事!」
思わずそう叫んだルストにタンツは微笑み返しながら再び舞い上がるとその場を離脱する。
今が一気に仕留めるチャンスだった。
ヴェリックがルストに言う。
「地力縛鎖は使えるか?」
「もちろん」
「では頼む! 仕上げは私がする」
「了解」
ルストとヴェリック、同じ武器を持つ者同士が連携での攻撃を行う。まずはルストから。
「精術駆動 視界内認識存在限定 地力縛鎖!」
聖句詠唱と共に地母神の御柱の打頭部を地面へと突き立てるように打ち据える。
自らの視界の中に捉えていた特定の存在を限定して、地面の重力の力を増大させて足止めを食らわせる。
敵は瞬間的に地面に突っ伏してるとそのまま動けなくなった。さらにヴェリックが叫んだ。
「精術駆動! 巨人圧殺!」
両手で掴んだ地母神の御柱を大きくまっすぐ振りかぶるとそのまま正眼で真上から真下へとまっすぐ振り下る。すると凄まじい打撃音があたりに鳴り響いた。
――ドオオンッ!――
それはルストの技の巨人槌によく似ていたが、反映される規模は明らかに桁違いだった。その迫力にルストは驚愕しつつも見惚れていた。
いまや、敵は一人残らず絶命していた。
全員にマドカの声がする。
『攻撃対象、無力化確認!』
その言葉と同時に全員が自分が攻撃した対象の絶命を確認していく。
「敵、生存無し」
「同じく!」
「こちらも同じく」
『了解、全数撃破を認識する』
そして、一呼吸おいてマドカは肉声でこう叫んだのだ。
「我々の勝利だ!」
「おおお!」
勝利の凱歌の雄叫びが上がる。作戦は無事成功した。プロアの通過を無事に成功させたのみならず、潜んでいた黒鎖の覆面の者たちを一人残らず打ち倒したのだから。
「ありがとうございます!」
ルストは破顔して笑みを浮かべみんなにお礼の言葉を口にした。そして改めて暁の兵団の人々の姿を目線で追う。だがそこである事に気づいた。
「あら? タンツさんは?」
タンツが居ない。みんなで彼の姿を探す。すると彼はその場から西の方にわずかに移動した場所で空を仰いでいた。
マドカが彼に声をかける。
「タンツ」
「あ、団長」
「どうした?」
「いえ、西に飛んでいったアイツの姿を見ていました」
「そうか」
感傷的になって西へと去っていったプロアのシルエットをいつまでも眺めていた。その姿には自分の血を引く者への強い思いが滲み出ていた。
ルストの傍らでヴェリックが説明する。
「あいつの故郷はトルネデアス軍に襲われて〝根切り〟にあった。親は殺され幼い妹だけを連れて命からがら逃げ出し、浮浪児よりもひどい暮らしを何年も続けた。スリになって生き延びてきたが、妹さんは病気と栄養失調で命を落とした。あいつは天涯孤独だ」
その言葉に彼が何故、自分の子孫の役目と頑張りに対して強い関心を持つのかが分かる。
ルストはべルノとともに歩み出るとタンツへと声をかける。
「タンツさん」
ルストの声にタンツは振り向く。
「あなたの子孫、名前はデルプロアと言います。彼なら必ず任務を成功させてくれるでしょう」
べルノも告げる。
「ええ、彼なら必ずや役目を果たすでしょう」
それらの言葉にタンツはうなずいた。
「ああ!」
そう答える彼の表情はとても嬉しげだったのだ。
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