12:戦いⅠ ―英傑ヴェリック―

 ギョウセイ・マドカ率いる〝暁の兵団〟

 彼らの動きを前にしてルストは内心驚愕していた。

 ほとんど打ち合わせをしていないというのに総勢14人の戦力は3人ずつの4つの小班に分かれて準備を即座に終えた。ルストとマドカはそれぞれ別の小班に合流し、べルノはルストの属した小班と行動を共にすることになった。


 その人員の割り振りは意図したものではなく、阿吽の呼吸で即座に決まったものだった。べルノの処遇に関しても戦力外とはみなさないが積極的に前に出すべき存在ではないと即断、一番彼をよく知っているルストと行動を共にした方が良いという結論に至った。

 結果、人数割り振りは5人4人3人3人となる。

 1人が残るが、マドカはケンツに命じる。


「お前は一人単独で動け。そして保護対象となるはずの伝令役が無事にこの地の上空を通過できるように適時に判断を下せ」


 つまり一人だけ遊撃状態にし、この場所を通過するであろうプロアの監視警戒と危機回避を彼に委ねようというのだ。


「判った、任せてくれ」

「頼むぞ」


 短い言葉のやり取りのあとにタンツは一人離れて行った。


 それ以外の人々は黒鎖の連中の制圧と無力化を担うことになった。

 マドカが集団の統率を握り適時指示を下して行く。散開前に作戦要諦を再確認する。


「作戦の要諦は4方向から包囲し、同時攻撃を加えて一気に制圧する。特に遠距離攻撃を遠慮なく行い上空への狙撃を確実に妨害する。なおその際には相互誤射にくれぐれも注意すること」

「了解」


 そう静かに返答をするとそれ以後は無言のまま一斉に散っていった。

 ルストが属した小班は、先ほど紋章のペンダントを見せ合ったあの若い彼が率いていた。その他に巨人の大型牙剣ギガズベルデバインを所持する若者と、二本の手槍を主武器とする中年男性が控えている。

 モーデンハイムを名乗った彼が話しかけてきた。


「先ほどは失礼した。ヴェリック・モーデンハイムと言う」


 そう言いながら彼は右手を差し出してきた。ルストはそれを握り返しながら答える。


「こちらこそよろしくお願いします、ルストとお呼びください」

「ひとつ聞く」

「はい?」

「名前にミドルネームが入ってるがそれはなぜだ?」


 確かに、先ほどのタンツも名と姓しか無かった。ヴェリックの質問は250年前はそれが当たり前であったと暗に言っているのだ。


「今の時代では〝候族〟と言う上位身分があります。候族である者は〝姓〟を二つ持つのが通例なのです。つまり〝家族としての姓〟と〝一族としての姓〟です」

「なるほど、そういうことだったか」


 一呼吸おいて彼は言う。


「俺の先祖もかつては真ん中に名があったと言う。だが今では俺の代ではモーデンハイムは俺一人だ」

「えっ?」


 唐突に語られた言葉のその真意をヴェリックは淡々と語った。


「トルネデアスの弾圧で旧家の貴族階級はほぼ滅んだ。俺の2代前で平民として細々と生きてたと言う」

「250年前のトルネデアスの支配時代ですね?」

「そうだ」


 寂しげな顔をしていた彼だったが、口元に笑みを浮かべながら彼は続けた。


「だが、250年後もモーデンハイムの名が残り続け新たな時代に繁栄しているというのであれば、これほど嬉しいものはない」

「ヴェリックさん」

「ルスト殿、たとえ俺の代でモーデンハイムの家名を蘇らせる事ができなくても、いつか必ず君の時代へと繋げることができるだろう。今それだけで十分満足だ」


 そして、ヴェリックの視線はべルノの方にも向いた。


「べルノ殿とおっしゃいましたな?」

「はい。いかにも」


 ヴェリックはべルノにも笑みを向けた。


「200年以上の時を越えた粋な巡り合いをさせていただき誠に感謝いたします。この戦いの勝利をもってその恩に報いたいと思います」


 その言葉にべルノは言った。


「ありがとうございます。わたくし、様々な物語世界を見聞する身ですが、同胞からはらと誇りのために戦う人々の姿は、何処いずこにおいても素晴らしいものだと承知しております。この一戦に、そして皆様方のこれからの戦いの日々に恒久なる勝利がもたらされることを心より願いたいと思います」

「かたじけない」


 そう言葉を交わしながら二人は頷いた。

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