11:戦いの経緯

 彼らはルストの存在を認めてくれた。次は、こちらの事情を説明する必要がある。


「皆様方の250年前の献身的な戦いによりこの国は独立を果たしました。それ以来、この国の人民は自らの国を守り続けてきました。今なお領土侵略をあきらめないトルネデアスと戦い続けるために」


 その言葉に13人の男たちがざわめいた。


「200年以上経ってもまだ連中は諦めてないのか?」

「何を考えてるんだ砂モグラは?」

「あいつららしいぜ」


 するとマドカが軽く叫んだ。


「鎮まれ、話の途中だ」


 その一言でざわめきが止まった。見事なまでの統率だった。


「そして今私たちは西方の国境において国土防衛のための臨時の防衛部隊を組織する必要性に迫られています。まずそれが一点」


 ルストの言葉にマドカが頷いてくれた。


「そしてその、防衛部隊の結成に必要な承認書類を、この国の正規軍の中央幕僚本部から私の仲間が、ある精術武具の力を行使して一昼夜をかけて国土中央から西方辺境まで運ぼうとしています。その書類の到達がこの国の命運を左右しかねないのです」


 マドカが問う。


「それで?」

「私は、ここにいるべルノ氏と一緒に独自に調査をしてこの丘陵地帯に書類の送達を妨害しようとしている者たちが潜んでいる事実を掴んだのです。しかしながら正規の援軍を招聘するには時間がありません。かといって50人以上の暗殺暗躍部隊を私一人で仕留めるのは不可能です」


 するとそこで隊長であるマドカがルストと同じかそれ以上の洞察力の深さを見せつけたのだ。


「もしかして暗躍部隊、黒鎖ヘィスオと呼ばれていないか?」


 ルストは頷いた。


「はい。おっしゃる通りです。重要書類の到達を妨害しようとしているのは黒鎖の者たちです。その数50人余り」

「なんてことだ」


 そして13人の男たちから声が漏れた。


「革マスクの連中、200年以上経ってもまだそんなことやってるのか!」

「魂の底まで腐りきった連中だ変わるつもりもないんだろうよ」


 その言葉にルストは尋ねた。


「やはり彼らは昔から謀略に加担してたのですか?」


 マドカが答える。


「あぁ、フィッサールの悪徳商人連中の金稼ぎの片棒を担いでいる。金のためなら人殺しだって何でもやる連中だ」

「やはり」


 そして、マドカは言う。


「つまり、重要書類を西方辺境へと届けようとしている人物への妨害を阻止すればよいのだな?」

「はい。そのために皆様のお力をお借りしたいのです」


 その言葉を受けてマドカは背後を振り返った。


「みんなも聞いていたな?」

「はっ!」

「異論のある者は?」


 その問いに声は上がらなかった。マドカが言う。


「我々の意思は決した。貴君に協力しよう」

「ありがとうございます!」


 そしてべルノも言う。


「私も及ばずながら、お力添えさせていただきます」

「ありがとうございます」


 するとその時だ13人の男の中の一人が進み出ながらこう切り出したのだ。


「あのよぉ、その伝令役の使ってる精術武具って〝アキレスの羽〟って言わねえか?」


 現れたのは年の頃13歳くらいの少年だった。粗っぽさの中に真っ直ぐなひたむきさが見えている。


「はい。その通りです」

「まさか、もしかしてそいつの名前〝バーゼラル〟ってんじゃないだろうな?」


 そう問われれば答えるしかない。


「はい。おっしゃる通りです。伝令役を引き受けてくれたのはバーゼラル家の子孫の方です」

「やっぱり」


 ルストはその者に名前を尋ねた。


「ちなみにお名前は?」

「ん? 俺か? ケンツ・バーゼラル」


 ケンツは言う。


「フェンデリオルが独立して、この国が平和になったらよ、大貴族になって成り上がってやるんだ!」


 そして彼は尋ねてきた。


「それでよ、250年後は俺の子孫はどうなってるんだ?」

「えーと……」


 これは流石にルストも言いづらかった。でも隠してもしょうがないから言ってしまった方がいいだろうと彼女は踏ん切りをつけた。


「ケンツさんをはじめとして、こちらにいらっしゃる13人の戦士の方たちは、それぞれが家系を起こし、この国の政治の根幹を支えるようになります。それを今では『上級候族十三家』と呼んでいます」


 その話にみんながどよめきの声を上げていた。一番盛り上がったのはもちろんケンツだ。


「まじかよ!」

「はい本当です」

「よっしぁあ!」

「でも――」


 ルストはあの事実を彼に伝える。


「現在、バーゼラル家は前当主のアヘン密売の罪により取り潰しになっています」

「えっ?」


 ケンツがあっけにとられた顔している。残りの人々は思わず声を上げて笑っていた。


「何やってんだよ! 俺の子孫はよぉ!」

「でも――」


 その言葉にケンツの声が止まる。


「前当主の息子、つまり本来の家督継承者である彼が潰されてしまったバーゼラル家を再興すべく必死になって頑張っています」

「本当か?」

「はい。今回の伝令役がその彼です。重要文書の運搬、これを成功させればお家再興にも有利に働くでしょう」


 その事実を聞かされてケンツの表情が変わった。仮にも彼も歴史に名を残す13人の英雄たちの一人なのだ。


「そうか。遠い末裔が真面目にやってるって言うなら、俺も真剣にならないとな」


 軽いようで根は真面目な人らしかった。ルストはあらためて彼に言った。


「お願いします」

「おう!」


 その言葉に彼は頷いた。そしてリーダー役であるマドカが言った。


「時間がない。早速始めよう」

「よろしくお願いいたします」


 ルストたちは、ルストとマドカを先頭に、そのそばにべルノを交えて歩き始めた。その後ろを13人の戦士たちがついてくる。この戦いの勝利が恒久なる平和で繋がると信じて。

 今こそこの物語を正しいシナリオへと正す時が訪れようとしていた。

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