10:250年前からの援軍

 そして彼は立ち上がると一言告げる。


「今からある人たちをお呼び立てします。ですが、お招きした後に彼らを説得するのはあなたの役目となります」

「私が? 誰を呼ぶのですか?」

「それは、あなた自身にとても縁のある人たちです」

「私が?」

「ええ、あなたでなければ説得できない人たち。そして、この国にとても縁のある250年前の人たちです」

「250年前? まさか?」


 その時、べルノは相手が何者であるかは明言しなかった。だが、ルストにはそれが誰であるかはおぼろげながら直感していたのだった。


 そして、ベルノは立つと、右手を空間の中へと伸ばす。


「では、いきますよ」

「はい」


――カチャ――


 ドアノブがロックを外すような音がして扉が開いた。中から光が溢れて複数の人影が現れる。

 ぞろぞろと現れたその数は約14名、1人のうら若い女性を筆頭として野戦用マントを羽織った者たちが現れたのだ。

 いずれもがその手に武器を持っている。

 牙剣、戦杖、弓、戦棍――、実に様々だ。だが彼らには統率された意志のようなものが感じられた。

 その先頭に立って彼らを率いている一人の若い女性が声を発した。年の頃は明らかにルストと同い年ぐらいに見えた。


「ここはどこだ?」


 非常に意思の強さを感じさせる凛とした声だった。男言葉というよりは意図的に女の人の自分を抑制して、戦場という場所にふさわしい自分を作り上げているかのようなそんな語り口だった。

 その彼らに先んじて声をかけたのはべルノだった。

 彼は自ら進み出ると彼らに語りかけた。


「失礼いたします。わたくし、物語の時の流れを差配することができる者で〝夜見べルノ〟と申します。皆様方のことはいずれ元の世界、元の時間にお戻ししますのでご心配無く。今は火急の事態により皆様の力をお借り致したいのです」


 リーダー役の彼女が言う。


「どういうことだ? 我々に戦えというのか? 当たり前だが我々に縁のない無意味な戦いには手を貸さぬぞ?」


 その言葉に連動するかのように、彼女の背後にいる13人の男たちは明らかに警戒していた。

 そこにべルノは言った。


「無論、皆様方にとても重要な関わりのある戦いです。ですがその詳細はこちらの者に説明させていただきます」


 その言葉を受けてルストは進み出た。ルストにはなんとなしにも、彼らの正体が分かる気がしていた。そして名乗るよりも前に自分の着衣の襟元の中に隠して下げているあのペンダントを取り出し、掲げてみせたのだ。

 ルストの実家であるモーデンハイム家の紋章であるあのペンダントだ。


「皆様の中にこのペンダントの紋章に心当たりの有る方はおられませんか?」


 ルストは彼らの正体がおおよそわかっていた。彼らは250年前にこのフェンデリオル国の独立と国家成立に深く関わった人々だ。

 すると彼らの中の一人が前へと進み出てきた。ルストと同じ銀髪碧眼、正統のフェンデリオル人の外見の若い男性だった。身長が大きくガッチリとした体型をしていた。

 彼は進み出るなり声を発する。


「それは!? 俺の一族のモーデンハイムの紋章じゃないか? なぜ君がそれを持っている?」


 そして彼も着衣の襟の中からひとつのペンダントを取り出した。ルストの持っているものと全く同じだ。

 いやそればかりではない、彼は自分の右腰に下げていた武器を取り出していった。


「もしかして君がその腰に下げている戦杖、かなり偽装しているが俺のと同じ〝地母神ガイア御柱みはしら〟じゃないのか?」


 そう言いつつ彼は、自らが腰に下げていた戦杖の打頭部にかけていた革製のカバーを外した。そしてそこから現れたのは――

 ルストはその物の名を口にする。


「レアアークミスリルのインゴットヘッド!」


 ルストは驚きつつ、自らも急いで地母神の御柱の打頭部に被せていた外殻を外した。そこには間違いなくレアアークミスリル製のインゴットヘッドが備えられていたのだ。


 その光景を見て13人の男達の一人が言う。少し年を取った職人風の男だった。


「レアアークミスリルは極めて希少だ。そうそう簡単に作れるはずがない。偽物などは考えられん」


 その言葉が決め手となった。召喚された人々の警戒心が薄れた時を捉えて、ルストは自らを名乗った。


「私の名前はエライア・フォン・モーデンハイムと言います。あなた方の250年後の末裔の1人です」


 ルストは召喚された彼らの存在について問いかける。


「皆様方におかれましては、このフェンデリオルの人民の自由と独立のために戦い抜いた14人の英雄たちの皆様方とお見受け致します」


 ルストは彼らに対して最上級の礼意を表すために、左膝を地面につき右膝を立てて武器を地面に置いて両手を右膝の上に置いて敵意のないことを示した。それを目の当たりにて彼らは、ルストの言葉に応じてくれた。

 リーダーらしき女性が言う。


「顔を上げてください、エライア殿、あなたが語る仔細、おおよそ理解いたしました。あなたが我々の仲間の子孫であるということは承知いたしました」


 そして、彼らのリーダー役と思しき少女は頭に目深にかぶったフードをおろし、肩から羽織っていた大柄な外套マントの前を開けた。

 彼女が着ている衣装はこの国のものではない。前あわせの衣に袴姿。東方の遠国エントラタのサムライと呼ばれる剣士の装いだった。さらには髪型は東方の異国で〝総髪〟と呼ばれる後頭部で結い上げるスタイルだ。髪は長く黒髪で前髪を左右に分けたその下には、強い意志を湛えた黒い瞳が輝いていた。

 その左腰には大小二振りのサムライ刀が下げられている。

 彼女は自らの名前を名乗り始めた。


「それがしは、フェンデリオル人民独立闘争レジスタンス『暁の兵団』の団長を務める剣士、ギョウセイ・マドカと申す、二つ名は〝暁のマドカ〟と申します。お見知りおきを」


 二つ名を名乗られたのであればそれに応えるのが流儀というものだ。ルストは立ち上がると自らのもうひとつの名前について語った。


「私は故あって本当の名を隠しています。表向きの名前はエルスト・ターナー、二つ名は〝旋風のルスト〟お見知りおきを願います」


 そして現在のフェンデリオルでも定着している会釈で挨拶を示した。

 ルストが顔をあげればマドカは自ら歩み出ると右手を差し出してくる。ルストも右手を差し出して握手を交わした。

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