【エジソン】 モルモット オス -8-

その日の夕飯後に、皆にお願いをしようという話になった。


なんと伝えればよいのだろうか。ある少年の心を知りたいから、彼をもう一度ここに呼びたいなどと言えば、馬鹿にされるのは目に見えている。だが、噓をついたところで、彼をここに呼ぶために念じる、という実験を伝えることができなくなってしまう。


正直にいったところで聞く耳をもってもらえない、嘘もつけない。どうすればよいのか。


私は今まで孤独でも全く構わないと感じていたし、事実、その意見はつい最近まで変わることはなかった。


だが、この場面になって初めて他者の力が必要だと感じてしまっている。いや、私はそもそも孤独などではなかった。ぴーたろうとちゃちゃみという素晴らしい仲間がいたのだ。私が本当に孤独だったとしたら、私は私でなかったとさえ思う。


と、また風呂敷を広げすぎた。今は、皆に協力してもらうために、どう伝えるかだけを考えるべきだ。食事も喉を通らない。


「あなたが今考えていることはわかるわ。正直に伝えればいいのよ。私達にしてくれたように。それで私達は協力する気になったじゃない。」


「そのとおりだよ~。」


当たり前のように私と接してくれていた二匹の存在を、これほどまでに暖かく感じることは今までなかった。否、当たり前すぎてこの暖かさに気づけていなかったのだろう。私は、そんな自分自身が猛烈に恥ずかしくなった。


「ありがとう。そうすることにしよう。」


二匹はぽかんとしている。私だって礼くらい言う。


「よし、行ってくる。」




「皆の者、実は折り入って頼みたいことがある---」




先ほど食べていなかったレタスを思い切り食べる。安堵は空腹を招くものなのだ。


明日からは総勢11匹の実験がスタートする。これだけ大規模な実験だ。あの少年もきっとまた来るだろう。


「エジソンがあんなこと言うなんてね。」


「うん、驚いたけど、僕も同じ気持ちだな。子どもたちの笑顔は大好きだもん。」




大規模実験が始まって二週間の間、予想外なことが起きた。


まず手始めに、全員に対して健康チェックが実施された。今思えば当然のことだと思う。前日までにあちこち動き回っていたモルモット達が、急に動きを止め、念じているのだから。ましてや、人間達からしたら念じているとは見えておらず、体調不良により動きが鈍っていると感じたのだろう。


大規模な健康チェックの結果、我々に異常は発見されなかった。当然である。これが一つ目の出来事。


もうひとつが動物園の繁盛だ。


幹丘動物園の祈りを捧げるモルモット達が話題!!


モルモット達が一か所に固まって、目をつむっている姿が珍しかったのだろうか。そんな謳い文句と共に、週末のふれあいタイムがにぎやかになったのだ。


一か所に固まっているのは私の案である。仮に念じる力が届くのであれば、それは一か所から飛ばした方がより太く、強いモノになると考えたのだ。


この予想外の出来事は我々の追い風になると考えている。この話題があの少年の耳に届けば、もう一度来てくれるかもしれない。実験というのは予想外な結果が得られることもあるのだな、と自分自身に多少の感心をしつつ、私は実験を繰り返した。


「いつになったらこの実験は成功するのかしら。」


少し豪華になった野菜をほおばりながら、ちゃちゃみの心の声が漏れる。


「わからない。だが、必ず成功させて見せる。」


わたしにはそう言うことしかできなかった。



そして、この会話がまだ記憶に新しい日に、彼は木曜日の少年として現れた。

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