【エジソン】 モルモット オス -6-

彼をここに呼ぶための発明を考える。前提条件として、我々はこの広大な動物園という敷地から出ることはできない、すなわち外部への干渉は極めて難しい。だが、例えば、野良ネズミとコンタクトを取り、少年を呼びよせることは。


不可能だ。


彼がどこにいるのかもわからないし、名前すらわからない。知識のすごい少年を連れてきてくれ、とでも伝えるしかないな。しかしながら、その情報だけでも、少年を見つけ出せるんじゃないかと思わせる何かはある。加えてしかし、非現実的である。


彼の思考に直接干渉できたなら。


風が吹き荒れ短い芝生が踊りだした、それでよいではないか、と叫んでいる。


無謀ではあるが試してみる価値はある。これから私は少年の思考に直接語り掛ける。たとえ何万回の失敗があろうとも、それは一回の奇跡を得るための実験なのだ。


早速始めよう。


-少年、もう一度、私のもとに来てくれないか。もう一度話をしたいんだ。そして君がどのような思いを抱えていたのか、あるいは抱えていなかったのか、それを教えてほしいんだ。そして悩みを抱えているのであれば、私に解決させてほしいんだ。君の心が知りたい。ー


一度目の実験は成功しただろうか。おそらく失敗したであろう事実を潔く認め、もう一度同じ言葉を繰り返す。心にて。もう一度。もう一度。


何度の実験を重ねただろうか。少なくとも一万回には到底及ばない。たった半日ではあるが、私の発明はスタートしたのだ。だがしかし、代わりに失ったものもある。


「エジソン。元気ないのかな。」


「そんなことないわ。今朝は嬉しそうに私に話しかけてきたもの。本日から発明のため、実験を繰り返す!邪魔をしないように!ってね。」


「あれが実験なのかあ。変だなあ。」


発明に変はつきものである。そう自分に言い聞かせる。


目標に向かって突き進むのだ。


しかしなんだ。この目標という言葉は響きがあまりよくないな。


そう感じた私は、この目標を夢と呼ぶことにした。

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