【エジソン】 モルモット オス -5-
今宵は長い夜となる。私が考えるに人間たちが身に着けているものはすべて発明である。夢中になって目を落としている携帯、身に着けている様々な洋服、そして電池。これらがどのようなものかは私も理解しているが、どのようにできているのか、その原理が全く分からない。洋服についてはどうやら動物の毛からできているものもあるらしい。なるほど、この動物園にいる者達のありとあらゆる毛をかき集め、それを組み合わせれば新しい服ができるではないか。
新しい服か。結局は服ではないか。こんなものは発明とは言えない。
そもそもこの思考の方向性は間違っており、発明とは何かを真似するのではなく、何者も知りえない何かを生み出すことなのだ。加えて、モルモットである私が人間が発明したものを真似ることさえできないというのは、この頭で十分理解している。
今の私はぴーたろう以下、否、未満である。彼はレタスとにんじんを同時に食べるとおいしいという発明をして、その結果、本日のごはんタイムは皆それを真似していたようだ。今の私はどうやら頭が凝り固まっている。
これまでの思考を全否定するようではあるが、今まで人間から得た知識を振り返ってみる。それら知識は、多くはモノであったが、中には治療法や未知の言葉も含まれていた。痛いの痛いの飛んでけ、この治療法は私の中に衝撃が走ったのを今でも覚えている。その後、キミコが頭をぶつけた際に治療法を試したことがあった。
「いたい、、ぶつけた、、」
「大丈夫か、キミコ。痛いの痛いの飛んでけ!」
「ふざけてないで慰めたりしてよ!!」
どうでもよいことを思い出してしまったな。いや、失敗に対してどうでもよい、などという考えを持つのは、思考を停止した弱者と同義であり、高みを目指す私にとっては決してどうでもよくないことである。なぜあの時失敗したのだろうか、やはり人間でないと効果がないのか。と、悪い癖である。頭の中で風呂敷を広げすぎてしまうのは。
人間からヒントを得るための本題に戻る。有意義な内容を思い出そうとすると、どうしても彼の姿が頭に浮かぶ。
「発明をするためにはさ、何を作りたいか考えるだけじゃダメなんだ。どうやったらできるのかを、色んな方法を使って試す。そういうのを実験っていうんだけど、今身の回りにあるものは何万回という実験が元となってできた、たった一つの奇跡なんだよ。」
実験をするためには発明目標がなくては。今の私にはその目標すらない。そういえば少年から発明の話を聞いたときに、彼は人のためになるものを作りたいと言っていたな。何か明確なモノではなく、そうした漠然とした目標を立てるのも発明への第一歩なのではないか。
直感的に理解した。今の思考は確信に近い。
今の私がしたいことは何だろうか。
少年の心が知りたい。
だがしかし、少年はもう姿を見せていない。
では、どうするか。
少年をもう一度、ここへ呼び、彼の心を知る。
これが私の発明の意義だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます