【エジソン】 モルモット オス -4-

どうやら迷宮入りらしい。それから3度の水曜日を迎えたが、彼は姿を見せていない。少年がどのような思いを抱えていたのか、あるいは抱えていなかったのか、ところで、この思考は話が飛びすぎているため修正が必要だ。私は彼の名前すら知ることはなかった。


それからというもの、私の有益な時間はさほど有益なものでなくなってしまった。週末になれば新たな情報は入ってくる。最近流行っている車の話、携帯のカメラが新しくなった話、犬も歩けば棒に当たる話。どれも私が知らない情報であることには間違いないのだが、何か、私の内側を刺激するものを感じない。それは断片的な知識であるからなのか、いや、以前の私なら嬉々として成果報告会にて話していた内容ばかりだ。きっと私は彼から聞く情報、というよりも彼という知識の湖そのものに惹かれていたのかもしれない。そしてあれほどまでに身近であった少年について何も知らないという現実も、私の知りたいという知識への欲望を刺激していたのであろう。


モチベーションを失ったという言葉が適当である。


「今日の成果報告会を始める。何か有益な情報があった者は。」


「はーい。最近元気がないあなたにぴったりな情報を仕入れてきたわ。マルチビタミンっていうのを飲めば元気がぐんぐん出てくるらしいわよ。なんでも飲んだ人間は一日動いていても疲れていないうえに、次の日の寝起きがよくなったなんて言っていたわ。」


「なるほどな。してそれはどこで手に入るのだ?」


「それがどこで手に入るのかはわからなかったけど、そのマルチビタミンってのは野菜に含まれているモノらしいわよ」


「ならば我々はすでにそのマルチビタミンを飲んでいる状態なのではないか。」


この発言はわびさびに欠けている。しかしながら、いくら反省をしたところで、吐き出した言葉は飲み込めないものだ。


「すまなかった。それでは今日はこれにて解散。」


「待ってよー。僕もすごいことを知ったんだよー。」


「期待せずに聞こう。して内容は?」


「ペレットとレタスを同時に食べたらすごくおいしいんだよー。これってすごい発明だと思わない?」


ああそうか。感想も感情も失った私にもまだあるではないか。


「ぴーたろう、感謝する!私に生きがいを思い出せてくれた!では、今日はこれにて解散!」


「エジソン、おなかへってたのかなあ。」


今日は早々に藁へと顔をうずめる。待ちに待った、至高の思考だ。

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