エピローグ

「あぁ……つっかれた」

「あ、あはは……ごめんね、暁斗」



 リビングに転がっている、爆睡中のみんな。

 あれから変なノリと勢いでプレゼント交換や格ゲー大会を経て、深夜二時。

 草木も眠る丑三つ時というか、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだ。

 俺は残っている食い物を肴に、ジュースを飲む。

 隣に座っている梨蘭も、今にも寝そうだ。



「梨蘭、眠かったら寝てていいぞ」

「ううん、大丈夫よ。暁斗が起きてるんだもの。私も起きてるわ」



 梨蘭は俺の肩に頭を乗せると、電球に左手を伸ばした。

 左手の薬指に輝く結婚指輪。相当気に入ってくれたみたいだ。

 俺も同じように手を伸ばすと、俺らの運命の赤い糸が指輪から伸びて真っ直ぐに繋がっている。



「すごく幸せ……もう死んでもいいわ」

「縁起の悪いこと言うなよ」

「嘘よ。でも、気持ち的にはそれくらい幸せって意味」



 死んでもいいほどの幸せ、か……そういうもんかな。



「俺はまだ死にたくないかな」

「あら、欲張りさんね」

「ああ。梨蘭と今生を謳歌して、梨蘭を看取ってから死ぬ」

「……どういう意味?」



 本当にわからないのか、それともわかった上で聞いているのか、梨蘭は首を傾げた。



「もし俺が先に死んだら、梨蘭はどう思う?」

「……大げさに言うなら、後を追って死ぬわね。でも、すっごく悲しくて泣いちゃうかも」

「そう、それだ。俺は梨蘭に悲しんでほしくない」



 手を伸ばしている梨蘭の手を握り、ゆっくりと下ろしていく。

 手が、指輪が、赤い糸が、溶けるようにして絡まる。



「俺は、梨蘭がこの人生は最高だったって思えるような人生を歩ませて、幸せのまま眠って欲しい。だから、俺がお前を看取って──」

「ま、待った! 何それ、そんなの私だって同じ気持ちだから!」



 梨蘭は立ち上がると、俺を跨いでソファーに膝立ちになった。

 眉は険しく吊り上がり、じろりと睨んでくる。



「私だって、暁斗には幸せのまま生を終わらせてほしいの。だから私が看取るわ」

「いやいや。そんなのダメだ。俺が看取る」

「私!」

「俺!」

「「ぐむむむむ……!」」



 …………はぁ。何してんだ、俺たちは。

 同時に力が抜けると、梨蘭は俺の胸に体を預けてきた。

 向かい合い、どちらともなく笑みを浮かべる。



「ま、こういう話はそん時に考えればいいか」

「目指せ、夫婦揃って長寿ギネスね」

「夫婦で?」

「もちろん。元気いっぱい、百三十歳!」

「気の長い話だ」

「でもその分、いっぱい一緒にいれるわよ?」

「……いいな」

「でしょ」



 ま、できるできないかは置いといて。

 なんとなく、梨蘭と一緒なら何とかなる。

 そんな気がする。



「そうなったら、曾孫くらいいるかしら?」

「玄孫までいもおかしくはないな」

「賑やかそうね。末代まで幸せなんじゃない?」

「はは、だといいな。……でも、その前に」

「キャッ……!」



 そのままお姫様抱っこで抱き上げると、梨蘭を連れてリビングを出る。



「孫とかの前に、まずは俺らの子だろ」

「まままま待って待って……! そそそそそれはまだ早いんじゃ……!?」

「勿論ゴムはつけるさ。でもヤることはヤりたい」

「……ばか。好き」

「ああ、俺もだよ」



 実際、今から先の未来なんてわからない。

 敵視していた女の子が、こうして俺と運命の赤い糸で結ばれているなんて、誰も思わないだろ?

 わからないからこそ、今を全力で生きる。

 全力で、今の梨蘭を幸せにする。


 天敵だった女子は──俺の最愛の女性なんだから。


【完】



 ────────────────────

【作者より】

 あとがきにて新作情報を出していますので、よろしくお願いします!

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