第239話

 そうして時は流れ──クリスマス当日。

 俺たちの家には、結構な人数がやって来ていた。

 龍也、寧夏、琴乃、乃亜。そしてなんと、璃音とリーザさん。ひよりと朝彦もいるではないか。

 クリスマスなのに、俺らのクリパに来ていいのか聞くと。



「昨日、リーザさんとデートしたのよ」

「ひよりたちも〜。いっぱいしちゃった〜」



 とのこと。

 いや、ひより。いっぱいしたのはデートをってことだよな? なんかエッチな言葉に聞こえたのは、俺の心が汚れてるからじゃないよな?

 そう考えていると、朝彦が申し訳なさそうに頬を掻いた。



「あはは……すみません、暁斗さん。僕までお邪魔してしまって…… 」

「何言ってんだよ。俺ら友達じゃん」

「! ……えへへ……そ、そうですよねっ。ありがとうございます、暁斗さんっ」



 うおっ、眩しい笑顔……! イケメンが屈託のない笑顔になると、こうも輝くのか……!

 俺と朝彦が話していると、龍也と寧夏がずいっと前のめりになった。



「へいへい、朝彦っていうのか? あれだろ? 土御門の運命の人だろ? 俺は龍也だ。暁斗のダチなら、俺のダチだぜ!」

「へいへいへーい。ウチは寧夏ねー。よろよろ」

「は、はいっ。よろしくお願いします!」



 流石コミュ力の塊の龍也と寧夏。一瞬で朝彦と距離を詰めた。

 まあ、知っている同性が俺だけって、どうしても気まずくなるからな。根明の二人なら大丈夫だと思ったが、思った通りだ。

 梨蘭と俺でキッチンから料理を運ぶ。

 全部手作りは無理だが、ポテトサラダやサーモンのマリネとか、家でできるものはちゃんと作っている。

 その他、ピザとかチキンは出来合いのものだが、次々に運ばれてくる料理にみんな嬉しそうな声を上げた。



「すごい豪華だナ。すまない少年。こんなに用意してもらっテ」

「いえいえ。みんなが喜んでくれるのであれば、安いもんです」

「作ったのは私だけどね」

「盛ったのは俺だ」

「それ自慢することじゃないから」



 何をう? 盛り付けも大事だろ、ただ皿に入れただけだけど。

 すると、琴乃と乃亜がコップを持ってぶーぶーと抗議してきた。



「ねーお兄ー。いちゃいちゃするのもいいけど、お腹空いたー」

「センパイ、もう食べましょーよー」

「ああ、そうだな。じゃあ乾杯するか。あと、いちゃいちゃしてないからな」

「「「え?」」」



 ……おい、なんだその「何言ってんのこの人?」みたいな目は。やめろ、みんなしてそんな目で俺を見るんじゃない!

 咳払いをして、全員にコップと飲み物を回す。

 リーザさんは成人しているが、申し訳ないが今日のところはお酒ではなくジュースで我慢してもらった。ほとんど未成年だし、申し訳ないが。

 全員に行き渡ったところで、一瞬だけ無言になる。

 と、みんなが俺の方を見てきた。



「え……俺?」

「何言ってんのよ。暁斗が音頭を取らないと、始まらないでしょ。この家の家主はあんたなんだから」

「そーだそーだー! アキたん、しっかりしろー!」



 梨蘭とひよりに煽られ、みんなもやいのやいのと言ってきた。

 え、ええ……俺、こういうの向いてないんだけど。

 まあ、みんなから煽られたなら、やるけどさ。

 コップを片手に立ち上がると、みんながそわそわと俺を見上げてきた。うう、緊張感……!



「こほん。あー……僭越ながら音頭を取らせていただきます。えー、まずはお忙しい中、足をお運び頂きましてー」

「硬いわ!! 暁斗、もっとフランクにフランクに!」

「だから慣れてないんだっての……!」



 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 よし。



「……この一年、色々とありました。運命の赤い糸が現れて、生活が一変したのは俺だけじゃないはずです。琴乃と乃亜に関しては来年だけど……俺たちを見てわかる通り、本当に……本当に振り回された一年でした」



 俺の言葉に、琴乃と乃亜以外のみんなが苦笑いを浮かべて頷いた。

 俺たちが振り回されたみたいに、みんなもみんなで、俺の知らないところでいろんなことがあったみたいだ。

 でもそれを乗り越えたから、今こうしてみんなで集まっていられる。

 こうして、幸せでいられる。



「今日はクリスマス。今年最後にして、最大のイベントです。今年一年の苦難を忘れ、今日は楽しみましょうっ、乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」



 俺の音頭で、みんなが一斉にコップを掲げる。

 ふう、無事終わったぁ……今年最後になんつー重責を……。

 ソファーに座ると、俺の隣にいた梨蘭がニコニコと俺に紙皿を渡してきた。



「ふふ。暁斗、いい音頭だったわよ」

「ありがとう。めちゃめちゃ緊張したわ」



 ほっと一息ついて、みんなを見渡す。

 あっちもこっちも、まあ楽しそうに会話が弾んでるな。

 俺はピザを一切れ取ると、梨蘭は「でも」と話を続けた。



「暁斗の言う通りだと思うわ。私たちは私たちで色々あった。でも、みんなにはみんなで、色々あった……そんな一年だったものね」

「俺にとっては、梨蘭はマジでずっと天敵だったしな」

「う。あの時の私の話はやめてよ……」



 梨蘭は当時のことを話されるのが嫌みたいで、この話をする度に拗ねてしまう。

 まあ、拗ねた梨蘭も可愛いんだけどさ。



「過去のこととは言えないけど、俺はあの時があるから今があると思う」

「本当に?」

「ああ。無関心からの好きより、マイナスからの好きの方が振れ幅が大きくていい感じだろ?」

「それ、暁斗がマイナスだったってこと?」

「当時はな」

「……そうよね。うん、そりゃそうよね……」



 あら、拗ねたんじゃなくて、落ち込んじゃった。

 全く……可愛い反応するな、梨蘭は。

 しゃーない。本当はもっと後に出して驚かせるつもりだったんだけど……。



「梨蘭、目をつむってくれ」

「え?」

「いいから」

「……はい、これでいい?」



 よしよし、目を閉じたな。

 俺はあらかじめ用意していたものを、ポケットから取り出す。

 梨蘭の左手を取ると、ゆっくり薬指、、にプレゼントを付けた。



「え……!?」



 さすがに驚いたのか、梨蘭は目を開けてしまった。

 左手の薬指に嵌められていたのは、指輪。

 俺と梨蘭の誕生石であるルビーが埋め込まれたシンプルなもので、今俺の左手にも輝いている。

 そう、石手寺先輩のところでバイトした時に、バイト代としてもらったのは、これ

 ――結婚指輪だ。

 梨蘭は口をぱくぱくさせて、愕然としている。

 いきなりだったもんな。そりゃあ驚くか。



「俺からのクリスマスプレゼント。……愛してるよ、梨蘭」

「――わ、わた……私も、愛してる……!」



 見開かれた梨蘭の目から、大粒の涙がこぼれる。

 え、なんで泣くの? ここは喜ばれる場面じゃない!?

 想定外のことに慌てていると、みんながやいのやいのと俺らを囃してきた。



「へいへい! 何二人で盛り上がってんだー! 寧夏、俺らも盛り上がるぜ!」

「そーだそーだー! ウチらも負けてらんねー! むちゅー!」



 何故か龍也と寧夏がその場のノリでキスをし始めた。

 いや、マジで何してんだこいつら。

 だけど場はシラけるどころか盛り上がり、ひよりも朝彦の頬にキスをした。って、いやお前たちもかい



「ぬへへ。ひよりたちもらぶらぶだもんね~」

「あはは……恥ずかしいですけどね」



 まあ、運命の人同士だからいいけど……って、うお!? 凛音とリーザさんもいちゃいちゃしてるし!

 何このカオスな空間! 誰のせいだ! ……俺だ!



「あわわわわ……!? こ、これが大人の空間……!?」

「これ、私たちいていいのかな、琴乃……!?」



 あ、やべ。中学生がいるの忘れてた。



「お前らストップ! ストーップ!」

「暁斗、みんなより私を見てよ」

「ちょ、梨蘭!?」



 梨蘭もこの場の空気に充てられたのか、俺にのしかかってくる。

 ちょ、本当に待って――!?

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