第238話
「いやー、今日は本当にありがと! 謝礼は振り込んどくから!」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「あざっす」
撮影が終わり、俺らは客室に通されてのんびりお茶を飲んでいた。
冬とはいえ、休みなしで数時間も撮影してたから体が火照っている。冷たいお茶が丁度良かった。
「あの写真、いつから掲載されるんですか?」
「ウェブサイトには明日で、SNSにはもう載っけてるよ。リング、ネックレス、ブレスレット、イヤリングの四枚を。いやー、掲載して二時間くらいだけど、こんな反響を貰ったのは初めてだよ」
石手寺先輩がパソコンでSNSを開くと、確かに俺らが撮った写真と広告が載っていた。
少し加工しているのか、背景がぼやけていたり光っていたりする。
だけど、俺らが見たものより格段に良くなっていた。
それに、たった二時間で数万件も拡散されている。今も、更新する事に数字が増えていくし……これは見てて気持ちいいな。
「もう予約も凄く来てるし、二人に頼んでよかったー。これからも末永くよろしくね!」
「まだ頼むんですか」
「当たり前じゃん? なんて言っても、私の糸は朱色だからね。こういう人脈的機会は逃がさないようにしてんの」
へぇっ、この人も朱色なのか。意外といるな、朱色の糸。
まあ全体の4.5パーセントなら、ありえる数字か。
石手寺先輩はパソコンをしまうと、何かを思い出したかのように手を叩き、ソファーの横に置いていた小さな紙袋を渡してくれた。
「あ、それと真田くん。これ、例のやつね」
「ありがとうございます。でも本当にいいんですか? 結構無茶ぶりかと思ったんですけど」
「なんのなんの! むしろこの程度でこんな予約が沢山来るなら、安いもんだよ!」
そう言ってくれると助かる。
石手寺先輩から紙袋を受け取ると、隣に座っている梨蘭が首を傾げた。
「暁斗、何それ? お店の商品?」
「ああ、ちょっとな」
「む、何よそれ。私には秘密って言いたいの?」
あ、やべ。ちょっと拗ねてる。
拗ねてる梨蘭も可愛いからこのまま見ていたいけど、最終的に良心が削られるからな……。
「龍也に頼まれた。それだけだ」
「あ、そうなんだ。よかったぁ……」
「何が」
「私じゃない誰かに渡すのかと思ってたの。だって秘密にしてるんだもん」
「んなわけないだろ、ばかたれ」
梨蘭以外にジュエリー系を渡すとか、普通にありえないだろ。
梨蘭のデコを指で弾くと、ムッとした顔で睨んできた。
「ばかたれって何よ、ばかたれって」
「俺がどんだけ梨蘭を好きかわかってないから、ばかたれって言った」
「は? 私の方が暁斗のこと好きなんだけど」
「いやいや、俺の方が梨蘭のこと好きだが」
「私なんてずっとずっとあんたのこと好きだったのよ。私の方が好き」
「愛は時間じゃなくて密度だ。俺の方が断然好きだね」
…………。
「やるか?」
「やるの?」
同時に立ち上がり、睨み合う。
よしわかった。こいつにどんだけ俺が梨蘭のことを好きかわからせてやる。……わからせってなんかエロいね。
いやそうじゃない。ちゃんと俺の気持ちを梨蘭に刷り込む。そして羞恥心の末、参ったと言わせる。
逆に梨蘭も同じようなことを考えているだろう。
なら俺は、梨蘭が何を言っても表情を変えず、ただ淡々と愛の言葉を囁く。それしかない。
俺らの間に謎の緊張感が漂う。
そして──。
「ご両人、何アホなことしてんの?」
「「あ」」
……石手寺先輩がいるの、忘れてた。
一気に正気に戻った俺ら。咳払いをして、ソファーに座り直す。
「いやぁ、いいもの見せてもらったよ。これが噂の、銀杏高校最強カップルの痴話喧嘩ね」
「噂?」
「うん。結構話題なんだよ、二人の言い合い。最近は見なくなったって聞いてたけど、いやはや実物を見ると凄いね。こっちが恥ずかしくなる」
石手寺先輩は朱色に染まった頬をぽりぽりと掻き、あははと笑みを浮かべた。
そ、そんなに噂になってるの、俺らって……?
やば、それ恥ずかしすぎる。
「二人が仲がいいのはよーくわかったよ。本当、お互いが好きなんだね」
「はい。私の方が暁斗を好きです」
「俺の方が梨蘭のことを好きっすね」
「「……あ?」」
「ねえ、その痴話喧嘩もう帰ってベッドの上でやりなよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます