第236話

 梨蘭へのクリスマスプレゼントを考えている間に一日、また一日と過ぎ。

 気付けば十二月。完全に冬になってしまった。

 冷たい風が肌を刺す。夏の暑さが恋しい季節だ。



「うぅ、寒いぃ〜……!」

「本当、一気に寒くなったな」



 今日も今日とて学校に向かう俺と梨蘭。

 俺は上からダウンジャケットにマフラー。下にも冬用の肌着を着ているからそれなりに防げている。

 けど隣を歩く梨蘭は、生脚だ。ストッキングもタイツも履いていない。

 上半身はジャケットとマフラーでモコモコしているが、下半身の防御力が紙である。

 それに加えてスカートは短い。どうしてそうなった。



「寒いならタイツとか履いてくればよかったのに」

「でも暁斗、いつも私の脚見てるじゃない。見れなくなるわよ?」

「え、俺そんなに見てた?」

「まあね。だから好きなんだと思ってたけど。いつも脚で興奮してるし」

「うるせぇ」



 後半の情報を今言うことないだろ。恥ずかしいんだけど。



「明日からちゃんとタイツ履けよ。梨蘭の体が冷えない方が大切だから」

「あら。脚見えなくなるけどいいの?」

「タイツにはタイツの良さがあるんだよ」

「……変態。でも好き」

「複雑」



 好いてくれるのは嬉しいけど、変態扱いは頂けない。

 梨蘭は少しでも寒さを凌ごうとして、俺の腕に抱き着いてくる。

 こうやって腕を組んで歩くのも慣れてきたな。

 少しだけ歩みを緩めると、梨蘭も気付いて笑を零した。

 もう少しだけ、こうして歩いていたいという気持ちが伝わったらしい。



「ねえねえ暁斗。明日って休みよね? なら今日の夜、いい?」

「いいけど……珍しいな、梨蘭から誘ってくるなんて。いつも俺からなのに」

「好きが溢れてきちゃって止まんない」



 何小っ恥ずかしいことサラッと言ってんだ。そんなの、俺の方が止まんないって。

 冬の寒さに負けないくらい顔が熱くなる。

 俺はマフラーで口元を覆うと、無言で頷いた。



「かーわい」

「う、うるさい」

「自覚するまで何度も言ってあげましょうか? 暁斗、可愛すぎ」



 くそ、こんなにからかわれるとは。

 別に可愛いと言われるのはいいが、そう何度も言われると本当に照れる。

 あー、さっきまで寒かったのに、今は体が火照るくらい熱い。






「ご両人。イチャイチャしているところ申し訳ないです」

「キャッ!?」

「うぉっ」






 突然、背後から声を掛けられた。

 び、ビビった。よかったら女の子のような悲鳴が出なくて。

 二人で振り返ると、そこには女性が一人立っていた。

 もふもふのアウターを着ているが、見えるスカートからうちの学校の生徒だとわかる。

 はて、どこかで会ったような、ないような?



「あ。い、石手寺先輩……もう、驚かせないでくださいよ」

「あはは、ごめんね久遠寺さん」



 石手寺? ……ああ、銀杏祭のときの鉱石展示の人か。よく覚えてたな、梨蘭。

 石手寺先輩はニヤニヤ顔で俺の肩をバシバシと叩いてきた。



「いやぁ、朝からお盛んだねぇ。いいこといいこと! 私も運命の人に会いたくなったよ」

「どこから聞いてたんすか」

「聞いてはないけど、雰囲気がピンクだったから」



 マジか、全然そんなの意識してなかった。

 あれでピンクな空気なのか……気をつけよ。



「ねえねえ久遠寺さん。やっぱ真田くんとは相性いいんでしょ? どう? 楽しんでる?」

「ええっ!? そ、それはその……は、はぃ……」

「ヒューッ!」

「喧しい。あと梨蘭も素直に答えなくていいから」



 てか、やけにグイグイ来るな、石手寺先輩。



「ところでぇ〜、二人にお願いがあるんだけど〜」

「お願い?」

「そっ! 今度うちの店で広告出すんだけど、二人にモデルをお願いしたくて……だめ?」



 石手寺は手を合わせて可愛くお願いしてくる。

 そういや、そんな話があったな。この人も、あれだけの会話でよくも覚えてたな。



「私は構いませんよ。暁斗も大丈夫です」

「俺は一言もそんなこと言ってないが」

「ダメなの?」

「……ダメ、じゃ、ないけど……」

「じゃあ決まりねっ! 撮影は次の日曜日だから、よろしく!」



 いやそれ明後日だし。めっちゃギリギリじゃん。

 なんつー行き当たりばったりな人だ。

 石手寺先輩は「それじゃー!」と言うと、元気に走り去っていった。



「嵐のような人ね」

「商売人の子供って、あんな感じなんだろう」



 寧夏もそうだしな。どことなく寧夏と同じような雰囲気を感じる。

 ……ん? ふむ……?



「なあ梨蘭。石手寺先輩に貰った名刺持ってるか?」

「ええ。確かファイルに……あった。はい」

「ありがとう」



 前に石手寺先輩に貰った名刺を受け取り、QRコードからウェブサイトに飛ぶ。

 綺麗なサイトで、どれも目を引く宝石の数々。

 そして──お目当てのものがあった。



「どうしたの?」

「いや、モデルを請け負うなら、店のことを知っとこうと思って」

「あら、やる気満々ね」

「仕事はこなさないとな」



 スマホをしまうと、梨蘭は再び腕を組んできた。

 あとは石手寺先輩と交渉だが……ま、何とかなるだろ。

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