第235話

「…………」

「……ねえ暁斗。人の顔じろじろ見すぎなんだけど」

「あ、悪い」



 あれから何日か経った。

 段々と空気が冷たくなっていき、冬を感じさせる中、クリスマスパーティーの準備も少しずつ行われている。

 しかし俺は、まだ梨蘭へのプレゼントを考えていた。

 龍也と寧夏は、俺が渡すものならなんでもいいって言っていた。

 でもそんな適当な理由で決めたくない。

 大切で、好きで、愛しているからこそ、梨蘭にはちゃんとしたプレゼントをあげたい。

 だけど……うぅむ、悩む。

 梨蘭の顔を見ていたら、何か浮かぶと思ったんだが……わからん。何がいいんだ。



「あの、暁斗……? ほ、本当に、そんな見つめないで。恥ずかしくなっちゃうから……」

「可愛い」

「とっ、唐突に何言ってんのよ! ふんっ」



 怒られた。素直な言葉を口にしただけなのに。

 朝ご飯の味噌汁をすすり、焼き鮭を食べる。純和風の朝ご飯、うまし。



「ねえ。最近の暁斗、なんか変よ?」

「俺が変なのはいつもだろ」

「それもそうか」

「おいコラそこは否定しろ」

「否定出来るとでも?」

「……無理だな」



 確かに、俺って割と変な方だ。

 けど今は至って真面目である。真面目に梨蘭のクリスマスプレゼントを考えている。

 結局最後は、羞恥心の余り梨蘭が部屋に立てこもってしまったため、渾身の土下座で許してもらった。



   ◆



「悩んでいる。助けてくれ」

「お前変なところで優柔不断だな」



 学校に着いてから、龍也と寧夏、璃音を招集。

 因みに梨蘭は、三千院先生に連れ出してもらった。用もないのにすみません、先生。

 璃音には事情は説明済みで、うんうんと頷いている。



「なるほどね、梨蘭ちゃんのためにプレゼント選びで悩んでると。意外と可愛いところあるのね、暁斗くん」

「どこがだ」

「え? アッキーは可愛いよ?」

「まあ、ある意味で可愛くはあるよな、暁斗は」



 璃音の言葉に、龍也と寧夏が同調した。

 え、ええ……なんか嫌だ。可愛いって言われて喜ぶような男じゃないんだけど、俺。



「でもそうねぇ。倉敷くんたちの言う通り、梨蘭ちゃんならなんでも喜ぶと思うけど」

「それじゃダメだって」

「最後まで聞きなさい」

「あ、はい」



 璃音の圧が若干怖い。ごめんなさい。



「ようは、暁斗くんが一生懸命選んだものならなんでもいいってこと。適当なものじゃダメ。心の底から、暁斗くんが梨蘭ちゃんにあげたいと思ったものじゃないと」

「心の底から……?」



 梨蘭が欲しいものじゃなくて、俺が心の底からあげたい、か……。



「ア、キ、たーん!」

「ほげっ!?」



 の、脳天ッ、いっっってぇ……!

 涙目で俺の脳天に何かを食らわした元凶を見る。

 今日も今日とて綺麗なふわふわのピンク髪に、元気いっぱいを体現したような女の子。ひよりだ。



「アキたんやほー。なに辛気臭い顔してんのー?」

「ひより。まず俺に言うことは?」

「おはよー!」

「おう、おはよう。あと謝罪な?」

「めんご!」

「よろしい」



 ひよりは背負っていた鞄を下ろすと、近くの椅子を持ってきて座った。



「で、なんの作戦会議してんのー? それとも悪巧み?」

「暁斗くんが梨蘭ちゃんにクリスマスプレゼントをあげるんだけど、何をあげるか迷ってるんだって」

「なんで? アキたんのあげるものならなんでもよくない?」



 こいつら揃いも揃って俺と梨蘭の関係をなんだと思ってんだ。



「でもそうだなー。ひよりだったら、お揃いのものとか嬉しいかもー」

「お揃い?」

「うん、お揃いー」



 ふむ、お揃いか。

 でもそれ、誕生日のマグカップがあるんだよなぁ。あれは図らずも被っただけだけどさ。

 でも、俺が一生懸命選んだもので、ペアのもの……。



「わからんけど、方向性は見えた気がする」

「おー? ひよりのおかげ?」

「おう、助かった」

「ぬへへ〜、褒められた」



 まだ時間はあるんだ。じっくり選ぶとするか。



「ほぅ、なるほどなるほど……」

「おや寧夏さん。お気づきですか?」

「ええ、ええ。そりゃあ勿論」

「ふふ。梨蘭ちゃん、幸せ者ねぇ」



 龍也たちがニヤニヤとこっちを見てくる。いや、何その顔。なんでニヤニヤしてんだこいつら。

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