第232話
◆
「梨蘭、お前な……」
「あら、何かしら?」
ツヤツヤしたいい笑顔を向けるんじゃねぇ。
まあ、俺も我慢してたところはあるし、嫌じゃ無かったけどさ。
はぁ……もういいや。
身支度を整えてクラスに向かう。もう日は傾き、終了の時間も近付いていた。
琴乃と乃亜は先に帰ったらしい。さっき連絡があった。
「そういえば、クラスの方サボっちゃったわね」
「いいんじゃないか? 俺らがいた所で、人が来すぎて混乱するだろうし」
「それもそっか」
さっきまで騒がしかった校内が、今は落ち着いている。
早いところは撤収作業を開始してるみたいだ。
「なんかあっという間だったわね」
「だな。明日はあと片付けで登校しなきゃならないが……だりぃな」
「でも明日の片付けが終われば、月曜日と火曜日は振替休日よ」
「片付け最高。一生片付けがいい」
「頭沸いてるの?」
失礼な。
だって授業よりそっちの方がよくない? 出来るなら三日くらいかけて片付けようぜ。で、残りは振替休日で休み。そしたら実質一週間授業なし。天才的だな俺。メ〇サから勧誘が来るレベル。
「何考えてるかわからないけど、2億パーセントありえないわ」
「勝手に人の心読むのやめて」
まあその通りなんだけどさ。でも可能性はゼロじゃないだろ? ……いや、ゼロか。うん、ゼロだ。
ようやくクラスに戻ってくると、クラスの方も客足は落ち着いていた。
今は明日の片付けに向けて、諏訪部さんを筆頭に少しずつバラしている途中みたいだ。
「あ、真田くん。久遠寺さん。おかえりなさい」
「ただいま、委員長。ごめんなさい、途中からほっぽりだしちゃって……」
「気にしないで。むしろいい感じに人が来たから、余裕を持って接客出来ました」
それは暗に、俺らがいないから丁度よかったと言いたいのか。事実その通り過ぎて何も言い返せないが。
と、落ち着きを取り戻していた校内に、銀杏祭の終了を告げる放送が流れた。
それを皮切りに残っていた一般客は帰っていき、生徒は自分のクラスへと戻る。
もうすぐ祭りは終わりだ。
慌ただしく、忙しく、奔走して、でも楽しかった高校始めての学園祭。
だが祭りはまだ終わらない。
何故なら……。
「焼肉だああああああああ!!!!」
「「「「イエーーーーーーーーイ!!!!」」」」
打ち上げ! の! 焼肉! です!
クラスメイト+三千院先生は、打ち上げで超高級焼肉店に来ていた。
3日間の合計売上額、105万円。
そのうちのレンタル代を抜いた100万円が打ち上げ代となり、クラスメイト40人分、1人頭2万5000円の焼肉食べ放題となった。
まあ、2万5000円の焼肉食べ放題なんてあるはずもなく。ぶっちゃけどうするか悩んでいたんだが。
「あ、ならうちの経営してる焼肉店貸し切ろうか」
という寧夏の案で、芸能人や社長などのハイステータス御用達の焼肉店を貸し切ってくれたのだ。
本来はない食べ放題メニューも、快く受けてくれた。寧夏様様だ。
「十文寺さん、無理を言ってしまって、本当にごめんなさいね」
「だいじょーぶですよ、まーやちゃん。ウチもここ来たことなかったんで、むしろ丁度よかったです」
「三千院先生ですよ。そう言ってもらえて助かります」
とか言いつつ、三千院先生も満更でもなさそうに高級肉を食べている。
肉の前では何もかも無力なのだ。
更に十文寺家の計らいでカラオケ機まで用意してくれたおかげで、焼肉を食べながらのカラオケ大会に突入。
音痴な三千院先生や、意外や意外な諏訪部さんのアニソン、梨蘭とひよりと寧夏のアニソン、龍也と俺のデュエット等々。とにかく大いに盛り上がる。
今は、クラスメイトが癒しの童謡を歌っているのを見ながら肉を食いまくっている。やっぱり肉しか勝たん。
「暁斗、おつかさーん。……て、やべぇくらい食ってるな」
「おー龍也。まだ食い足りん。この数日でめっちゃカロリー使ったからな」
「悪かったって、いきなりブレイクダンスなんて頼んじまってよ」
龍也が俺の隣に座ると、コーラを一気飲みして俺の焼いていた肉を食い始めた。
「おいコラ俺の肉取るな」
「名前書いとけ」
「書いてあるだろ」
「なんで!? なんで焼き目で名前書いてあんの!?」
「頑張った」
「努力の方向性がイカれてないか!?」
「うるさい。これは俺のだ」
「え、えぇ……まあ名前が書いてあるなら……」
なんかめっちゃドン引きされた上に、珍獣を見てるような目でみられた。解せぬ。
「ま、何にせよお疲れ様だな」
「おう。年内のイベントはこれで全部か。はえーな」
「何言ってやがる。まだ今年最大のイベントがあるだろ」
え、何だろ……? 何か残ってたか?
龍也は俺の肩に手を回し、ニヤリと口角を上げた。
「今年最大のリア充イベント──クリパよ!」
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