第227話

 和風喫茶で一休みし、今度は校舎内の出し物を見て回ることに。

 琴乃と乃亜が前を歩き、その後ろを俺と梨蘭が着いていく。

 パンフレットと地図もあるから、2人は楽しそうに色々と見て回っていた。



「おおっ。見て見て琴乃、宝石展示だって」

「さすが高校生。凄いもの展示してるね……!」



 2人が宝石展示に入り、俺らも後に続く。



「そういえば、展示って見てなかったわね」

「意外だな。梨蘭ってこういうのに真っ先に飛びつきそうだけど」

「暁斗と一緒に回るのが楽しくて、つい忘れちゃってたのよ」



 そういうことシレッと言うのやめて。結構恥ずかしいから。


 どうやらこのクラスには鉱石店の娘さんがいるらしく、その家から色々と貸し出して貰ってるみたいだ。

 教室の奥には、警備っぽい人も立っている。

 高校の学園祭でそこまでしていいのか……まあ、薬師寺先輩が許可したなら、いいんだろうけど。


 ……あの人のことだから、なんでも許可しそうだなぁ。面白そうとかいう理由で。



「うわ、キレー……」

「アメジストの原石って、こうなってるんだぁ……」



 確かに綺麗だ。宝石とか興味がない俺でも、現物を見ると心が躍る。


 ……あれ? 梨蘭がいない。どこ行ったんだ……?

 ……あ、いた。ちょっと離れた場所で、何かを覗き込んでる。



「梨蘭、どうした?」

「あ、暁斗。これ、私たちの誕生石よ」

「え?」



 あ、ここ誕生石のコーナーなのか。

 1月から12月まで並んでいる誕生石。

 その中に、俺らが生まれた7月の誕生石もある。


 ルビーだ。

 宝石の女王と呼ばれ、石言葉は「純愛」や「愛の炎」など、愛に関わる言葉が多い。

 他にも「情熱」「勇気」「自由」。「勝利を呼ぶ石」とも呼ばれているらしい。



「前に1度調べたことがあるけど、改めて見ると……」

「俺たちにピッタリの石だな」

「やっぱりそうよねっ」



 顔を輝かせて頷く梨蘭。

 梨蘭も同じことを思ってたらしい。



「因みに、ミャンマーでは神秘の力を持つとされてるんだぞ。シェイクスピアも、ルビーは妖精からの贈り物って言ってるくらいだし」

「へぇ、そうなの? 詳しいのね」

「厨二病の初歩だ」

「アンタの常識を語るんじゃないわよ」

「お、今のカッコイイ。強敵に挑む主人公っぽい」

「全然嬉しくない賞賛をありがとう」



 ええ、かっこよくない? 見た目のヴァンパイア感も相まって、中々いい感じだと思うけど。



「でも俺、誕生石とか厨二病とか関係なく、この石は好きなんだよ」

「なんで? 綺麗だから?」

「ああ。梨蘭の瞳と同じ色だから」

「んぐっ……ばか」



 ちょ、とんがった爪先で蹴らないでっ、それ痛いから。



「センパイと姐さんって、いつもあんなんだっけ?」

「前よりもあまーくなってる気がする。同棲してタガが外れたかな?」

「でもエッチしてる雰囲気じゃないような」

「傍にいるだけで幸せなんじゃない?」

「なるほどー」



 こらそこ、邪推すんな。



「あのー、もしもし?」

「はい?」



 突然声が掛けられ、振り返る。

 鬼の角のカチューシャを付けた女の子がいた。リボンの色的に、2年生。このクラスの人かも。


 しまった、騒ぎすぎたか……?



「す、すみません。静かにします……!」

「あ、ううん。そうじゃなくて……2人って、真田君と久遠寺さんだよね?」

「え……はぁ、そうですけど」



 名前を言い当てられたくらいで、今更驚きはしない。

 何せウェディング会社の広告で、俺らのことを知らない生徒はいないくらいだ。

 この人も、偶然見かけて話しかけて来たんだろうな。



「やっぱり……! いやー、1度会いたかったんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。あ、私は石手寺いしてじ。よろしくね」

「は、はい、どうも」



 石手寺先輩はどこからか名刺を取り出し、俺と梨蘭に渡してきた。



「……もしかして、このクラスの鉱石って……」

「うんっ、私の家が提供してるんだよ」



 おお、やっぱり。

 石手寺鉱石店。コマーシャルでもたまに見る、結構大手の鉱石店だ。



「ねね、2人って結婚するんだよね?」

「は、はぁ、まあそうですね」

「もう婚約指輪とか、結婚指輪の石って決まった?」

「ま、まだそういうのは……」

「ならウチのにしなよ! 品質もいいし、2人にならちょっとお安くしておくからさっ! その代わり、ちょっとウチの宣伝とかしてくれると嬉しいかなーって」



 え、ちょ、グイグイ来るなこの人……!



「あ、他に知り合いで赤い糸で繋がってる人いない!? もしよければ紹介とか……!」

「ちょ、ちょっと考えさせてくださいっ。い、行くぞっ」

「そ、そうね。すみません失礼します」

「あ、お兄待ってー」

「失礼しましたー」

「あぁ……! 待ってますよ! 連絡くださいねー!」



 学園祭の最中に営業掛けてくんな、どんだけしたたかなんだっ!

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