第225話

 銀杏祭2日目はつつがなく終わった。

 いや、正直初日より繁盛しすぎてバタバタし、つつがなくとは言えない状況だったけど。

 それでも、クラス全員ワンランク上の焼肉食べ放題に行けることは決定した。


 焼肉に行ける。それだけで、育ち盛りはいつも以上の力を発揮できる。焼肉の力は偉大だ。


 そして3日目、土曜日。

 今日は学校を開放し、外部のお客さんを入れることになっている。


 が。



「まさか、学校側から大人しくしてくれと言われるとはなぁ」

「あはは……まあしょうがないわよ。この状態を見れば」



 俺と梨蘭が、空き教室から下を見る。

 中庭にも、グラウンドにも、更には校舎内にも。

 保護者はもちろん、学校のOBOG、近所のお年寄り、更には受験で銀杏高校を狙っている中学生が押し寄せ、大変なことになっている。


 下手すると、そこら辺の夏祭りなんかより全然人が来ていた。



「濃緋色の糸の効果、恐るべし」

「三千院先生が言ってたわ。こんなに人が来たこと、今までにないって」

「でしょうね」



 その結果、俺と梨蘭はこうして仕事を免除されたのだ。

 俺らが教室にいると、何が起こるかわかったもんじゃないからな。



「でも、これからどうしましょうか。一応先生からは、銀杏祭を回る許可は貰ってるけど」

「俺らが下手に動くと、また変なことが起こりそうな気がする」



 でも琴乃と乃亜を案内するって約束してるんだよなぁ。

 なんてことを考えていると。不意にスマホが鳴動した。



「ああ、やっぱり」

「どうしたの?」

「琴乃と乃亜からだ。ほら」



 琴乃:お兄、ついたよー

 乃亜:暁斗センパイ、どこにいます?(っ ॑ω ॑c)ワクワク

 琴乃:人多すぎるんだけど!

 乃亜:お腹空きましたー!(›´ω`‹ )ハラヘリ

 琴乃:お兄!۹(◦`H´◦)۶プンスカ!

 乃亜:センパイ!(「 `・ω・)「 ガオー



 いや、めっちゃ催促してくるじゃん。

 梨蘭も苦笑い浮かべてるし。



「ここまで甘えられたら、応えないわけにはいかないわよね、お兄ちゃん」

「お兄ちゃん言うな。まあ甘えられて悪い気はしないな」

「私も甘えていいのかしら?」

「いつも甘えてるだろ」

「もっとー」



 腕に抱きつき、肩に頭を乗せてきた。

 見た目は完全無欠の美少年(一部を除く)だから、少し居心地が悪い。


 それに、最近梨蘭の甘えというか、スキンシップが激しくなって来てる気がする。


 それに関しては悪い気はしない。

 むしろ嬉しい。

 ……のだが……。



「暁斗? どうしたの?」

「……いや、なんでもないよ」



 梨蘭の頭をそっと撫でる。

 幸せそうにニコニコ笑い、更に密着するように擦り寄って来た。


 スキンシップが多くなったり。

 甘え上手になったり。

 笑顔が増えたり。


 全く悪いことじゃないんだが……。



「我慢できるかなぁ、俺……」

「何か言った?」

「いや、何も」



 単純に、俺の男としての部分が我慢できるか、それが問題なのであって。

 高校生でも、やることはやっているカップルは多い。龍也と寧夏もそうだし、雰囲気的にはリーザさんと璃音もやることはやってるだろう。


 が、俺と梨蘭の場合状況が異なる。


 糸の色的に、そうおいそれとそう言った行為はできないんだ。

 ……でも、まあ。



「むー。暁斗、ぼーっとしてどうしたのよ。もっと私を見て──んっ!?」



 梨蘭の顎を持ち、軽いキスを落とした。

 それだけで、全身が痺れるような甘い感覚が貫く。

 一線は越えられないけど、これだけでも十分幸せを感じられるからな。


 今はこれで我慢だ。



「ぁ、ぅ……?」

「ごめん。なんとなく、俺も甘えたくなっただけだから。……は、早く琴乃たちの所に行こうか」

「ぅ……ぅん……」



 ぽ〜っとしている梨蘭の手を握り、空き教室を出て琴乃たちの待つ中庭へ向かっていった。






 余談だが、俺と梨蘭のキスを見ていたカップルや夫婦はその空気に当てられ、パートナーとイチャつきたくなって帰宅。少しだが人が減ったらしい。


 更に女子生徒は、男×男という構図に新たな扉が開いたという。


 あくまで、後日聞いた余談である。

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