第224話
◆
「さ、な、だ、く、ん?」
学園祭初日を終えて教室に戻った。
が、諏訪部さんを筆頭にクラスメイト達が腕を組んで激怒していた。
え、何? なんでこんな怒ってるの?
「ねえ真田くん。私、メッセでなんて送りました?」
「え? 大繁盛だからもっと送って来いだろ」
「人が来過ぎだから、もう送らないでって送ったんですよ!?」
なんだ、振りかと思った。
でもそんなに繁盛したんだなぁ。こりゃ売り上げもさぞすごいことになってるだろうな。
「ええ、なってますよ。おかげさまで、初日売り上げが銀杏祭の歴史上最高額になっています」
「おお、すげえ」
「でもそのせいで、今日回れなかった子が沢山いるんですよ! 反省してください!」
ああ、だからみんな、そんなに怒ってるのか。
そりゃ悪いことをしたな。
「わ、悪かった。明日は俺と梨蘭がメインで接客に入るからさ。許してくれると助かる」
「ちょっと暁斗。なんで私も巻き込んでんのよ」
「いや、俺と梨蘭が一緒にいたからあんなに囲まれたわけだし」
あと多分、濃緋色の糸のせいだろう。
俺と梨蘭は、経済的相性も朱色の数十倍だ。その効果のおかげで、これだけ人が来たんだろうな。
梨蘭も思い出して納得してくれたのか、渋々頷いた。
本当、梨蘭にも今度何か埋め合わせをしないとな。
なんて思っていると、諏訪部さんが深々と嘆息した。
「全くもう……大丈夫ですよ、真田くん、久遠寺さん。明日も事前に決めたシフト通りで働くことになったので。みんなも、それで納得しています」
「え? でも……」
「実は三千院先生から、提案があったのです」
三千院先生から?
黒板の方を見ると、猫耳と2つの尻尾を付けた、猫又のコスプレをしている三千院先生がいた。
「はい。実は銀杏祭で得た収益は、各クラスで発生したレンタル費用を返済すれば、残りは好きなように使っていい決まりになっているんです。例年は打ち上げとしてジュースやお菓子、アイスを差し入れするだけですが……今回は皆さん頑張っているので、打ち上げは焼肉になりました」
「「「「「イエーーーーーーーーーイ!! や・き・に・くーーーーーーー!!!!」」」」」
んな!? や、焼肉、だと……!?
「まだ少し足りませんが、明日と明後日の売り上げ次第では、ワンランク上の焼肉に連れて行ってあげられます。そう提案したら、皆さん張り切ってしまって」
まあ、そりゃあ張り切るだろう。俺も張り切ってるんだから、当然だ。
「……ん? なあ、諏訪部さん。じゃあなんでさっき俺怒られたの?」
「気持ち的にイライラしてたので」
理不尽だ。いや確かに申し訳ないけど。
それにしても、学園祭の打ち上げがクラスで焼肉かあ……俄然やる気が湧いて来たな。
「へいへい暁斗! こりゃステージで盛り上げて、もっと集客しようぜ! 目指せ叙々ノ宮!」
「言っておきますが、食べ放題の中でワンランク上の焼肉屋ですからね」
釘を刺されてしまった。まあ当たり前だけど。
「あ、ところで真綾ちゃん」
「三千院先生ですよ、倉敷君。なんですか?」
「なんで猫又のコスプレしてんすか?」
「え。美織……薬師寺さんが、似合っていると渡してきたんですが……」
ああ、似合ってる。こんな綺麗な人が猫耳猫尻尾を付けてるなんて、マニアからしたら据え膳ものだろう。
しかも三千院先生は、基本タイトスカートのスーツを着ている、ザ・女教師のような見た目だ。当然、今日もタイトスカートのスーツを着ている。
そんな三千院先生が猫耳猫尻尾の猫又って……。
「はっきり言って、マニア向けDVDに出てきそうだよねぃ」
「寧夏、はっきり言いすぎ」
誰もが心に思っていて口にしてないんだから。
しかし、三千院先生の耳にはがっつり聞こえたようで。
「や……や……!! 薬師寺美織ィィィィィイイイイイイ!!!!」
あ、行っちまった。ホームルームも終わってないのに。
「あー……それじゃ、諏訪部さん。号令よろしく」
「はい。それじゃあ皆さん。残り2日も頑張っていきましょうっ! えい、えい、おー!」
「「「「「えい! えい! おー!」」」」」
薬師寺先輩がやりそうな鼓舞に、俺らは拳を突き上げた。
今焼肉の元、クラスは1つになったのだ。
現金だなぁ、このクラス。
でも嫌いじゃない。
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