第223話

 こってり璃音に叱られ、それから残り時間は懸命に働いた。

 きっかり1時間働き、交代の時間になって俺と梨蘭は校内を練り歩くことにした。


 俺は和服のままで、犬耳犬尻尾に加えてもふもふ手足を付けている。

 首からは『1-5 和装喫茶』というプラカードを下げることで、宣伝になるのだとか(寧夏案)。


 どうしよう。なんか大型犬が首輪つけてるみたいで落ち着かない。


 で、梨蘭はさっきのドラキュラモードになっている。

 胸はしょうがないが、それ以外が完全に男装女子だ。さっきから女子生徒からひっきりなしに声を掛けられてる。



「人気者だな。さすが」

「何よ。暁斗だって女の子といっぱい写真撮ってるじゃない」

「俺はマスコット的にな。梨蘭は完全にアイドルじゃん」



 さっきから高頻度で呼び止められてるし。俺はオマケって感じだ。


 でもそのお陰で、うちのクラスに誘導できてる。

 今の時間、接客を担当してる諏訪部さんから、「もう送り込まないでくださいー!」と嬉しい悲鳴のメッセージを貰った。


 よしよし、もっと送り込んでやろう。



「暁斗、さすがにお腹空いたわ」

「あ、そうだな。何食う?」

「んー……わたあめ!」

「夏祭りの時もそうだったな……わたあめなんて、売ってるか?」

「中庭にあるみたいよ。行きましょ」



 梨蘭がパンフレットを片手に先導し、その後ろをついて行く。

 なんだか飼い主に連れられてる犬みたいな気持ち。


 中庭に出ると、そこも結構な人で賑わっていた。

 梨蘭みたいな本格コスプレをしてる人もいれば、俺みたいに簡単なコスプレをしてる人、ワンポイントだけにとどめてる人もいる。


 そんな中でも、梨蘭は異質の存在感を示していた。


 圧倒的美貌に加え、レベルの高いヴァンパイアのコスプレ。

 そんな梨蘭の後ろを歩いてる俺。完全に眷属じゃないか。



「あ、見付けたわ! 暁斗、わたあめ!」

「はいはい」



 けど、笑う姿は絶世の美女なんだよなぁ。

 脳がバグりそうだ。


 わたあめ屋でわたあめを注文し、200円を払う。

 学園祭の屋台は本当に安くて助かるな。



「ほら」

「ありがとっ。あむ。ん〜っ、あまぁ……!」



 俺の着物の裾を掴み、ぶんぶん振ってくる。

 なんか、夏にも見た光景だな。


 さっきまでは俺が梨蘭の眷属っぽかったのに、今じゃ梨蘭が迷子にならないように俺が梨蘭を連れている。


 はい、建前です。梨蘭と手を繋ぎたいからです。

 赤い糸がある限り、お互い迷子になることはないし。



「暁斗は何食べる?」

「んー……お。焼き鳥だ。ちょっと買ってくるな」

「あーい」



 焼き鳥屋台の列に並び、3本ほど購入。

 急いで梨蘭の所に戻ると。



「久遠寺さんっ、こっちにも視線くださーい!」

「こっちポーズお願いしまーす」

「あ、はい。こんな感じでどうです?」

「「「「「キャーーーーッ!!」」」」」



 うーむ、見事に人だかりが出来ている。



「さすがだな、久遠寺くんは」

「え? あ、薬師寺先輩。こんちゃす」

「うむ、こんにちは。見ていたが、1人になった瞬間囲まれてたぞ」

「まあ、俺と一緒にいるより、梨蘭1人の方が様になりますからね」

「というより、君と一緒だと幸せそうだからな、彼女は。声を掛けるにも、掛けづらかったんだろう」



 そんなにか?

 ……あの様子を見るに、本当なんだろうな。ちょっと複雑。



「微妙そうな顔をしてるけど、それは君にも当てはまるぞ」

「え?」

「こうして私が傍にいなかったら、君も飢えた女生徒達に群がられていただろうな」



 ははは、そんな馬鹿な。


 ふと周りを見渡す。

 ……心做しか、視線が増えてるような……? 

 いやいや。見てくれはいい龍也や朝彦ならともかく、俺が注目されるなんてことないって。



「それより。人集まりすぎですよ、閻魔様」

「確かにそうだな。だが閻魔様というのはやめてくれ。恥ずかしいじゃないか」

「自分で言ってたじゃないっすか。そんなガチな格好までして」

「自分で言うのと、他人に言われるのは別なのさ」



 そういうもんかね。


 薬師寺先輩は1回咳払いをし、声を張り上げた。



「そこに集まっている生徒諸君! 今すぐ解散しないと生徒会長権限で銀杏祭期間中は全て補習にするぞォ!!」



 ピタッ。そそくさそそくさ。

 すげぇ、今の言葉でみんないなくなった。

 本当にそんな権限があるのかは疑問だけど、この人ならマジでやりかねないからなぁ……。



「暁斗ぉ〜、つかれたぁ〜」

「おう、お疲れさん。薬師寺先輩、あざす」

「ありがとうございます、先輩」

「ふふ、気にしないでくれ。これも風紀を守る一環だからな」



 薬師寺先輩はカラカラと笑い、雑踏の中に消えていった。


 うちの学校には風紀委員はいない。

 だなら生徒会がその役割を兼任してるんだが……あの人ほど、風紀委員長が似合う人もいない。


 さすが、閻魔様といったところか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る