第222話

 銀杏祭は校舎だけでなく部活棟、中庭、校庭でもそれぞれ出し物がある。

 特に校庭は屋台が並んでいて、沢山の生徒が集まっていた。


 が、その分校舎内の出し物が暇になることはなく。



「いらっしゃいませ。2名様ですね。こちらへどうぞ」

「お待たせ致しました。こちらほうじ茶でございます」

「お会計320円になります。ありがとうございましたー」



 1年5組の和装喫茶も、かなりの人気だった。

 和風を題材にしている場所はここしかなく、しかも顔面偏差値もかはり高め。

 男はもちろん、女もかなりの人数来ていた。


 その視線の先は、もちろんこの3人。



「お待たせ致しました。こちら抹茶ラテでございます」

「申し訳ございません。お写真は全て禁止となっていまして」

「はーいっ、こんな感じでどうですー?」

「ひよりっ、写真ダメって言ってんでしょ!」



 梨蘭、璃音、ひよりだ。

 梨蘭と璃音はドラキュラメイクが功を奏し、影のある男性っぽく見える。そのお陰で女性人気がうなぎ登りだ。


 ひよりはギャルっぽい見た目とミイラコスプレの包帯で庇護欲を誘ってるのか、男子生徒にひっきりなしに呼ばれている


 うーん、流石だなぁ、3人とも。



「あのー、すみませーん」

「あ、はい」



 呼ばれた方に行くと、女子生徒3人がいた。

 多分先輩だろうか。悪霊コスプレをしてるから、正確な学年がわからない。



「お待たせ致しました。ご注文は──」

「キャーッ! ホントに真田君だ!」

「ウェディング広告の写真見たよ! すっごくよかった!」



 えっ。え、えっ……?

 な、なんだ? なんか凄く圧がつよいぞ?



「あの、ご注文を……」

「犬耳かわいー! ねね、それ犬のコスプレ?」

「ばっか、狼男でしょ」

「あの、写真撮ってもいいですか!?」

「と、当店はそのようなサービスはしていないので……!」



 えーやら、ぶーぶーと言ってくる3人の女子生徒。

 女3人よればかしましいというが、本当にかしましいな。


 うーんどうしよう。一応接客中だから強い言葉を使う訳にもいかないし。

 こういう時、ひよりなら上手く対応するんだろうなぁ。どうしよ。


 3人からの言葉を苦笑いで受け流す。


 でもいい加減他のお客さんの迷惑だから、ちょっと強めに──。






「失礼します、お客様」

「ぉ……?」






 背後から聞きなれた声と共に、俺の首筋に手が添えられる。

 この甘い声と柑橘系の香り。間違いなく、梨蘭だ。


 次の瞬間。



「あぐっ」



 梨蘭が、俺の首筋に噛み付いてきた。



「ヒョッ……!?」



 思わず漏れる変な声。

 でもわかってほしい、俺の気持ちも。


 教室内も僅かにザワつく。

 痛くはない。甘噛みのような軽さに、つい気持ちよさを覚えてしまう。


 梨蘭はようやく口を離すと、舌なめずりをして3人の女子生徒を睨んだ。



「申し訳ございません、お客様。彼は私の眷属なので。……イタズラが過ぎると、あなた方も眷属にしてしまいますよ?」

「「「ぁ……すみません……」」」



 ドラキュラ梨蘭のイケメンスマイル。

 女子生徒3人組は魅了された。


 ゲームならそんな文字が見えて来そうだ。

 梨蘭に腕を引かれ、俺は裏方へと連れて行かれた。


 直後、割れんばかりの喝采が教室内に沸き起こる。

 なんだかちょっとしたイベントっぽくなったな。


 そこに、裏で仕事をしていた龍也と寧夏がやって来た。



「なんだなんだ? どうした?」

「めっちゃ盛り上がってんじゃん。いいなー」

「倉敷、寧夏。持ち場に戻りなさい」

「「え?」」

「私はこの浮気野郎とサシで話があるから」

「「あ、はい」」



 ちょ、2人とも即カーテンの向こうに引っ込まないで、助けて。



「暁斗、正座」

「り、梨蘭。落ち着け? まずは落ち着いて話し合いを……」

「正座」

「はい」



 ダメだ。とても話し合える雰囲気じゃない。

 床に正座をすると、腕を組んだ梨蘭が見下ろしてくる。



「被告人、真田暁斗。言い残す言葉は?」

「弁明の余地すらないと!?」

「浮気野郎と話し合う言葉は持ってないわ」

「浮気なんてしてないんだけど」

「浮気よ。あんな女の子3人に迫られてニヤニヤしちゃって……!」



 あ、やばい。段々と涙目に。



「ああいう時はビシッと言い返すのっ。困った感じでニヤニヤしちゃダメなのっ。暁斗がニヤニヤしていいのは私にだけなのっ」

「あ、あー……ごめんなさい……?」

「ダメ、許さないわ」



 許さないんかい。

 梨蘭は俺に背を向け、正座をしている俺の脚に座り、背中を預けてきた。



「梨蘭さん? これは?」

「拷問よ」

「は?」

「石抱ならぬ、梨蘭抱よ。脚が痺れて動けなくなるまで拷問は続くわ」

「……そりゃ、残虐な拷問だ」

「でしょ? さあ眷属。私を後ろから抱き締めなさい」

「はいはい」



 甘えたいなら甘えたいって言えばいいのに。

 梨蘭を後ろから抱き締めると、満足そうに息を吐いた。

 全く、この子は……。






「裏方さーん。バカップルが仕事そっちのけなので、1人手伝ってくださーい」

「リラたん、幸せそうだねー」



 あ、仕事忘れてた。

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