第221話

 そうして1週間、殆どの時間をブレイクダンスに費やした。


 梨蘭とリーザさんのサポートのおかげで、なんとか見れるものにはなっている。と思う。

 動画で確認したが、やっぱり俺だけちょっと浮いてるんだよなぁ。



「不安だ」

「大丈夫だって暁斗! むしろ暁斗だけ上手すぎて、俺らが下手に見えねーか心配なくらいだぜ」



 肩組むな、暑苦しい。



「それより、そんな辛気くせぇ顔すんなよ。今日から銀杏祭ギン祭初日だぞ! テンション上げてこーぜ!」



 そう。1週間が経ったということは、今日から銀杏高校学園祭──銀杏祭がスタートする。

 木曜、金曜、土曜の日程で、最初の2日間は生徒のみ。土曜日は学校を解放して、外からのお客さんを呼び込む。


 もちろん、琴乃と乃亜も来るらしい。

 あんまりお兄ちゃんのコスプレ姿は見て欲しくないんだけどなぁ。


 ついでに言うと、ステージ発表も土曜日だ。

 生徒のみならず、一般の人達の前で踊るのは緊張するが……なるようになるか。



「それにしても、龍也はマジで似合ってんな」

「だろ? メイクはネイ監修だぜ」

「ぶいぶい」



 見事、フランケンシュタインの怪物に化けている龍也。

 その横で、寧夏はキョンシーのコスプレをしている。

 この2人、マジで似合ってんな。



「そういうアッキーも似合ってんよ」

「つっても、犬耳に犬尻尾、もふもふ手足を付けただけだぞ」



 教室の姿見で自分の姿を確認する。

 服は既に和服に着替えていて、その上から犬耳と犬尻尾を付けている。

 接客時に手足は取るけど、基本的に耳と尻尾は付けたままだ。


 因みに梨蘭、璃音、ひよりは接客。龍也と寧夏は調理担当になっている。

 調理といっても屋内で火は使えないから、電子レンジで温める冷食が基本だけど。


 外での屋台調理でなら使えるけど、それは2年生と3年生だけらしいからな。



「そういや、久遠寺と竜宮院はどこだ?」

「ああ、璃音の家で準備してから来るって言ってたから、もう少ししたら来る」

「ふーん。あいつら、どんなコスプレするんだろうな」

「知らない。教えてくれなかった」



 梨蘭と璃音のコスプレ……なんでも似合うとは思うけど、どんなコスプレをして来るのか。気になる。


 教室の最終調整を行っていると、廊下の方が妙にザワついた。

 なんだなんだ?

 と、廊下にいたクラスメイトが入って来た。



「さ、真田! おおおおままままっ!?」

「は? 俺?」



 はて、どうしたんだろう。

 クラスメイトに連れられ、廊下に出る。



「あら、暁斗」

「暁斗君、お待たせ」

「ぇ……り、梨蘭、璃音……!?」



 そ、そのコスプレって……まさかっ。



「ドラキュラか!?」

「ええ、そうよ。璃音と一緒に、ドラキュラ姉妹にしてみたの」

「どう? 似合うかしら?」



 長く、ピッタリしたズボンに、胸元が少し開いたシャツ。

 その上からロングコートを羽織り、手には穴あきグローブ。足はロングブーツを履いている。

 つけ牙を付けているのか口からは牙が見えていて、顔は全体的に病的なメイクがされていた。


 色としては、梨蘭が全体的に黒色。璃音は全体的に赤色のコスプレ衣装になっている。



「す、すげぇ似合う、けど……まさか俺が狼男にするって聞いて、ドラキュラのコスプレを準備したのか?」

「ええ。めちゃめちゃ大変だったわよ。璃音と一緒に頑張って手作りして、なんとか完成したの」



 ドラキュラと狼男は犬猿の仲……天敵として描かれることが多い。

 俺と梨蘭の昔の関係性のような、そんなコスプレだ。


 というか、その……超カッコイイな、2人とも……。



「ん? おおっ、久遠寺も竜宮院もかっけぇじゃん!」

「リラ、リオ! 写真、写真撮らせて!」



 後からやって来た龍也と寧夏もテンション高め。

 そりゃ、こんだけ完成度高いコスプレ姿を見たら、そうなるか。



「……って、そんだけ着るの大変そうなコスプレで大丈夫か? 俺ら、まずは和服着て接客だぞ」

「大丈夫よ。コートを脱いでその上から和服着たら、問題なく動ける作りにしてるから」



 あ、そっすか。

 その辺もちゃんと考えてんのね。



「えー? なになに? リラたんかわいー!」

「あ、ひよ……りっ!?」



 反対側からやって来たひより。

 が、その姿が頂けなかった。



「ちょっ、ひよ……それ!?」

「んー? あ、これー? ひよりのコスプレ。どう、似合うー?」



 に、似合うも何もっ……!



「包帯巻いてるだけじゃねーか!」

「ぶぶー。ミイラ女ですー。可愛いっしょー?」



 全身に包帯を巻いて、大事なところはちゃんと隠しているが……如何せん肌色が多すぎる。というかセクシーすぎる。



「高校の学園祭でそんなコスプレするんじゃありません!」

「えー。いーじゃん、可愛いしー」

「良いわけなかろう」

「あだっ!?」



 え? あっ、薬師寺先輩!


 いつの間にかひよりの後ろに立っていた薬師寺先輩が、ひよりの頭に分厚い本を振り下ろした。

 薬師寺先輩もコスプレをしているのか、ゴテゴテした和服みたいなものを着ている。



「悪ガキ。公序良俗に反するコスプレは禁止。その上から何か着なさい」

「ぶーぶーっ! ぼーりょく反対ー!」

「愛の鞭と言え。君のように可愛らしい女性が、そのような格好をしていると、不安になるのだ。さ、行くぞ」

「ちょっ、かいちょー引っ張らないでー!」



 ひよりの手を掴んで廊下を進む薬師寺先輩。



「ところで薬師寺先輩。それなんのコスプレっすか?」

「む? ああ、閻魔大王だ」



 それを聞いたこの場にいる全員、同じことを思っただろう。



(((((似合いすぎ)))))



 と。

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