第220話
「ほウ! 少年がブレイクダンスをするト?」
「不本意ッスけどね」
放課後、実相寺道場にて。
リーザさんに伝えると、案の定ニヤニヤされた。
ちくしょう、だから言いたくなかったんだ。
「そうかそうカ。それデ、あと1週間しかないから私に助けを求めに来たんだナ」
「だから不本意っつってんでしょ」
ええい、頬をつつくな、鬱陶しい。
リーザさんの手を払い除けると、璃音が準備運動をしながら聞いてきた。
「リーザさん。暁斗君ってブレイクダンスやってたって言ってましたけど、上手なんですか?」
「うム、上手いゾ。少年、見せてやったらどうダ?」
「見せてやったらってもう半年くらい出来てないんですが」
「少年なら大丈夫だロ」
その無責任な自信はどこから来るんですかね。
結局やらなきゃ行けないから、やれるだけやりますが。
スマホで昔練習していた曲を流し、振り付けを思い出す。
リズムに乗り、エントリーやフットワーク、パワームーブ系を決めていく。
が、やっぱり半年のブランクはでかい。
たった5分の曲で、大粒の汗が出るほど息が切れた。
「あー、キッツ……!」
「動きのキレは問題ないと思うゾ。キックボクシングや筋トレと、ブレイクダンスは全く別の動きダ。2日で動きに慣レ、3日で振りを覚エ、残り2日でチームの動きを叩き込ム」
「うへぇ……」
だからリーザさんに頼るのは嫌なんだ。この人、教えるとなるとマジで容赦ないから。
水分補給をして息を整えていると、璃音がポカーンとした間抜け面で俺を見てきた。
「璃音、どうした?」
「え、と。その……想像以上に凄かったというか、かっこよかったというか……どうしましょう、男の子にキュンとしてしまったわ」
「リオンさん!?」
「大丈夫ですよ、リーザさん。私が心から好きなのは、あなただけですから」
「リオンさん……!」
なんで俺は唐突に百合を見せられてるんだ。
リーザさんに撮ってもらった動画を見て、自分の出来を確認する。
うーむ……やっぱり半年のブランクはでかい。動きがもっさりしてる。
とにかく今日と明日で、動きに慣れないとな。
◆
「おぐぉ……! き、筋肉痛が……!」
「暁斗、大丈夫?」
この2日間で、なんとかブレイクダンスの動きに慣れることはできた。
が、代償がでかい。全身余すことなく筋肉痛だ。
やっぱ全身運動は違う筋肉を使うから、簡単に筋肉痛になるな。
今は寝室で、梨蘭に手伝ってもらいながらストレッチをしている。
筋肉痛の時にやりすぎても逆効果だから、軽く伸ばす程度だけど。
「あと3日で振りを覚えて、2日で龍也達と合わせか……きちぃ」
多分、ここ数ヶ月の中で1番忙しい。
というか軽く死ぬ。どっかで休養を取らなきゃ死んでしまう。
うつ伏せになってベッドの上でボーッとしていると、梨蘭が俺の頭付近に座った。
「ほら暁斗。よしよししてあげるから、こっち来なさい」
「よしよし?」
「ええ。暁斗、頑張ってるんだもの。これくらいさせて。ね?」
「それじゃあ遠慮なく」
体を動かし、梨蘭の太ももに顔面を突っ込む。
うわ……何このもちぷに感。それにいい匂い過ぎる。
触覚と嗅覚が幸せすぎてヤバい。意識飛びそう。
「ちょっ! なんでその体勢!? 普通顔を上に向けるでしょ!」
「動くのすら怠くて」
「そっ、そこで喋るなぁ!」
「おぶっ」
くすぐったいのか、俺の頭を抱きかかえて抵抗して来た。
ギリ息はできるけど、顔面の感触と後頭部の感触、それに梨蘭の匂いで昇天しそう。やばい、死ぬる。
「全く、暁斗のえっち」
「男はえっちな生き物だぞ。特に、梨蘭みたいな超絶美少女の前では」
「もう、ばか」
とか言ってるけど、語尾に『♪』が付きそうなくらいには嬉しそうだな。
梨蘭も大概、単純みたいだ。
梨蘭が俺の髪を撫で、もふもふする。
触り方が絶妙だ。体の緊張が解れて、一気に眠気が……。
「よしよし。暁斗はよく頑張ってるわ」
「そうかな……?」
「ええ。頑張りすぎな気もするけど……でも、その分私の前では思い切り甘えていいから。弱いところ、いっぱい見せて。私が暁斗を支えるから。ね?」
…………。
「梨蘭、いい女すぎる」
「あら。ようやく気付いた? 私、大好きな人にはとことん尽くす女なの」
「はは。……ありがとう」
頭をゆっくり撫でられ、眠気がピークになると共に、俺の意識は夢の海に沈んでいった。
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