第219話

 羞恥を隠すように、看板作りに没頭する振りをしつつ話題を逸らした。



「そ、それよりも。2人はコスプレはどうするか決めたのか?」

「ええ、決めたわよ。今は璃音の家に置いてもらってるわ」

「え、なんで?」

「銀杏祭までの秘密ー。その方がいいでしょ?」



 秘密……いったいどんなコスプレにしたんだろう。気になる。

 梨蘭ならどんなコスプレでも似合いそうだけどなぁ。



「ふふ。暁斗君、梨蘭ちゃんのコスプレ、凄いわよ?」

「なんだって?」

「もう破壊力抜群よ。とんでもないんだから」



 なんと!? くっ、それは是非とも早く見たい……!



「隠し撮りした写真があるわ。今ならワンコインで1枚。サービスでもう1枚付けちゃうわよ」

「買った」

「馬鹿なの!?」



 あら、梨蘭に怒られてしまった。



「いくら友達同士でも、お金の貸し借りはダメよ! それが友情の破綻に繋がるんだから!」



 相変わらずの律儀ちゃんだ。

 いやまあ、こればかりは梨蘭が全面的に正しいんだけど。



「冗談、冗談だよ」

「私も冗談よ。ごめんなさいね、梨蘭ちゃん」

「全くもうっ。言っていい冗談と悪い冗談があるのよ。でもよかったわ、盗撮も冗談みたいで」

「あ、それは本当よ」

「なんで!? ちょ、消しなさいー!」

「ほほほ。捕まえてごらんなさーい」



 あの、道具使ってる俺の周りを走り回るの、止めてくれません? 危ないので。


 トンテンカンと看板を作っていると、どこかに行っていた龍也が戻ってきた。



「あー、つっかれたぁ」

「お疲れさん。どこ行ってたんだ?」

「へいへい暁斗。お前さんクラスのことに興味なさすぎだろ……俺は俺で、クラス代表としてステージ発表があんのよ」

「へぇ、頑張れ」

「淡白ぅ!!」



 いやまあ、それ以外にかける言葉ないし。



「因みにうちのクラスは何すんだ?」

「ブレイクダンスだ。6人でチーム組んでてな。夏休み前から練習してるからもうかなり完成度高いぜ」

「ブレイクダンス?」

「おう。動画撮ってあるぜ。ほら」



 龍也から動画を見せてもらう。

 曲に合わせ、体育館でブレイクダンスを踊る6人。

 それを横から見てきた梨蘭と璃音は、感心したように呟いた。



「おぉっ、やるじゃない」

「そうね。素人目に見ても、かなり完成度高いんじゃないかしら?」

「だべ!? どうよ暁斗!」



 ふむ……。



「ウインドミルの完成度がイマイチだな。勢いが足りない」

「え……暁斗、ブレイクダンスわかるのか?」

「まあ、小学校の頃はリーザさんのところで毎日やってたから。中学上がってからは、たまにしかやってないけど」



 リーザさんってキックボクシング専門だけど、基本なんでもできるんだよな。

 他にも色んなこと教えてもらったし。



「言えよ!? おまっ、そういう大切なことは言えよ!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いとらんわ!」



 あ、そっか。だから誘われなかったのか。

 まあ誘われたとしてと断ってたけど。めんどいし。



「ちょ、暁斗今から入らない?」

「無理。俺も俺で忙しいから」

「頼むよアキえも〜んっ!」



 ええい抱きつくな、鬱陶しい。

 龍也を押し退けると、俺の服を誰かに引っ張られた。



「……おい梨蘭。何故そんなキラキラした顔で俺を見る」

「暁斗、暁斗。私、見たい」

「あえて聞くが、何を?」

「暁斗のブレイクダンス」



 ですよねぇ。



「あのな、個人のブレイクダンスとチームのブレイクダンスは全く別物なんだ。今見た感じ、チームとしてはまとまっている。それに、6人のチームに7人目の俺が入っても、むしろ異物感じ出ちまってバランスが崩れるぞ」

「「そんなぁー……」」



 そんな顔しても、ダメなものはダメです。

 落ち込む2人を横目に、看板作りを再開する。

 と、急に教室のドアが開いた。



「く、倉敷君、大変だよ!」

「おー、どうした? 自主練は終わったのか?」



 どうやら、ブレイクダンスのチームの1人らしい。血相を変え、バタバタと龍也の元にやって来た。



「じ、自主練中に、たっくんが足捻っちゃって……!」

「なんだって!? ちょ、直ぐ行く!」



 龍也とクラスメイトは慌てて教室を飛び出す。

 それを見送ると、両肩をポンッと叩かれた。



「暁斗君、これが運命よ」

「足を捻っちゃった子には悪いけど、期待してるわ」



 ……どうしてこうなる。

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