第218話

 銀杏祭まで残り1週間となり、校内は銀杏祭に向けての準備が着々と進んでいた。


 あるクラスでは喫茶店。

 あるクラスではお化け屋敷。

 あるクラスでは屋台。


 そんな中、うちのクラスは、和装喫茶をやることになっていた。


 教室内を和風にし、給仕係は基本的に着物などの和服だ。

 和服の提供は璃音の実家。

 着てはいないが無駄に多い和服を、大量に提供してもらったのだ。


 しかもワンタッチで着替えられるよう、色々と改造してもらっている。本当、至れり尽くせりだ。


 そして今は、当日に向けての小物を手作りしたり、配置を考えたりしていた。



「ねえ、これどうするの?」

「男子ー、ちょっと手伝ってー」

「おーい買い出し誰かいかないか?」



 いやぁ、みんなやる気があって何よりだ。



「アンタも手伝いなさいよ」

「あだっ」



 いてて。誰だ、頭を叩いたのは。ちょっとカチンと来たぞ。


 ムッとした顔を向ける。

 そこには、梨蘭と璃音が木材やとんかちを手に持っていた。


 ゼロコンマ数秒で状況を把握。

 すかさずハンズアップ。



「話せばわかる」

「問答無用、と言って欲しいのかしら?」



 ご無体な。



「ほら2人とも、イチャイチャしないの。暁斗君、看板作るの手伝ってくれない?」

「ん? ああ、そういうことか。わかった」



 ブルーシートを敷き、その上で材木と板を釘で打ち付ける。

 とんてんかん、とんてんかん。

 こういう単純作業が好きなんだよな、俺って。



「へぇ、上手いもんね。はい、釘」

「まあこれくらいはな。ありがとう」



 梨蘭から次々と釘を受け取り、打っていく。

 そんな様子を、璃音がニヤニヤ顔で見てくる。



「なんだよ」

「いえ。夫婦の共同作業だと思って」

「ぶっ!?」



 ガスッ! いだあああああ!?



「ちょっ、暁斗大丈夫!? 璃音、変なこと言わないで!」

「ごめんなさい、つい」



 ついで済むか馬鹿たれ!

 幸い強くは打ってないから、指先がじんじんするだけだけど!


 指を咥え、ふと疑問に思ったことを聞く。



「今更だけど、看板のデザインってどうなってんだ?」

「それなら寧夏さんとひよりさん、あとは諏訪部さんに任せてあるわよ」



 璃音が指さした先を見る。

 諏訪部さんが模造紙に『1-5 和装喫茶』と書き、その周りを寧夏とひよりがデコレーションしていた。


 諏訪部さん、かなりの達筆だ。

 でもその周りを寧夏の可愛らしいイラストや、ひよりのハートマークが埋めつくしていて、シュールな看板になっていた。



「あれを最終的にこの看板に貼り付けて、教室の前に立て掛けるのよ」

「なるほど」



 瞬く間に、ファンシーでケミカルでパステルな感じの看板ができあがっていく。


 達筆な文字に可愛らしいイラスト。

 あれのどこに和風要素があるのか問い詰めたいところだが。



「にしても、あと1週間で学園祭か……」

「今年は今まででの人生で1番濃い1年を送ってる気がするわ。多分『運命の赤い糸』が見えてるからかもしれないけど」



 確かに。そもそも梨蘭と同棲始めてるから、生活様式が一変して時間の流れが遅く感じる。

 別に苦痛じゃない。楽しいから、もっとこの時間を楽しみたいとは思っている。


 すると、璃音が「そういえば」と口を開いた。



「最近赤い糸に関しての面白い仮説が出て来たわよ」

「仮説?」

「簡単に説明するとね、運命の人が近くにいる場合、より長く一緒にいれるように体感時間が長くなる。というものらしいわ」



 ほほう。長く一緒にいれるようにか。


『運命の赤い糸』はまだまだ解明されてないことが多い。

 璃音の言っていた仮説のようなことも、あるんだろうな。



「子供の頃って、1年が凄く長く感じたじゃない? それが一生続くみたいよ」

「一生て」

「運命の人が近くにいない状況での80年と、いる状況での80年は、およそ1.5倍くらい体感時間が違うらしいわ」



 てことは……約120年一緒にいる感覚になるってこと?


 ふと梨蘭を見る。

 図らずも一緒のタイミングで、梨蘭も俺を見た。


 俺らの糸は普通の色じゃない。濃緋色だ。

 もしその仮説が赤色、桃色、朱色、緋色の場合だとしたら……もしかしたら俺と梨蘭は、2倍くらいの体感時間になるんじゃないか?


 梨蘭も同じことを考えているのか、ギュンッと顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 そんな梨蘭を見て、俺もつい目を逸らした。

 だって……な? そんなこと急に言われても、恥ずかしいというか……。



「あらあら、うふふふふ。2人とも、いつまで経ってもうぶいわねぇ」



 うっせ。

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