第216話

 10月も少しすぎ、制服も完全に冬服への移行が済んだ頃。

 なんか生徒会から話があるということで、俺ら生徒は体育館へと集められていた。



「なーにすんだろーな。朝から体育館とかだるいんだけど」

「どっかの悪ガキがまた悪ふざけしたから、その注意じゃないか?」

「へいへい暁斗。それはもしかして俺のことかい?」

「もしかしなくても心当たりはあるだろ、お前は」

「…………」

「なんか言え?」



 そんな無言だと、マジで何かしたんじゃないかって不安になるから。



「大丈夫だよアッキー。りゅーやが馬鹿なことしないよう、ウチがちゃんと見張ってるから」

「寧夏が一緒だと余計安心できないんだけど」

「あらヤダ、信用ないねぃ」

「いや。お前らだからこそ、何かやらかしたんだと逆に信用してる」

「あ、ホント? えへへ、アッキーに信用された」

「ネイ、そこは照れる場所じゃねーから」



 寧夏にチョップを入れる龍也。

 うん、今のは龍也が正しい。


 と、その時。壇上に薬師寺先輩が登壇した。

 凛々しい表情に平たい胸。揺れるポニーテールがちょんまげのようで、武士のように見える。



「あ、女傑」

「あの人が最初から出るって、珍しいな」



 確かに。まあ、体育祭の件もあるし、何をするにしてももう驚かないけど。



『あー、あー。おはよう諸君。生徒会長の薬師寺美織だ』



 マイク越しでもわかるほどの美声。

 薬師寺先輩に憧れている梨蘭は、うっとりした顔で見つめている。



『今月末に行われる学園祭、銀杏祭についてお知らせがある』



 ああ、そういや今月末だっけ、銀杏祭。

 銀杏高校の学園祭は、10月の最終木曜日から金曜日か土曜日の3日間掛けて行われる。


 土曜日は外部の人が来るから、それなりにデカい規模のものとなる。地域に愛されている学園祭だ。


 それに関するお知らせって、なんだ……?


 他の生徒も同じことを思ってるのか、ザワザワしている。



『静粛に。これは銀杏祭を盛り上げるためのものだ。決して悪いことではない』



 銀杏祭を盛り上げる……?



『例年、銀杏祭は10月の末に行われる。しかし諸君、10月の末といえばもう1つイベントがあるだろう』



 10月末のイベント?

 はて、何かあったかな?



「何かしら。定期テスト?」

「「がはっ!」」

「梨蘭。シレッと2人にダメージを与えるな」



 龍也と寧夏、瀕死だから。

 あと定期テストは来週からだぞ。大丈夫かこの2人。



『10月末のイベント……そう、ハロウィンだ!』



 ……ハロウィン?



「ああ。古代ケルト人における1年の収穫に感謝する収穫祭。その時やってくる悪霊を追い払う宗教的な祭りのことか」

「その発想するの暁斗だけだぜ!?」

「アッキー無駄に博識すぎない?」



 何を言う。ハロウィンの起源を知ってるのは基礎中の基礎。義務教育といっていいだろ。

 ……いや俺の場合はなんとなく調べる機会があったからで決して厨二病とかカッコイイからとかそういう理由では決してないので悪しからず(目逸らし)。


 でもなんでいきなりハロウィンの話題に?



『察しのいい諸君のことだ。もうわかっているだろう。そう……今年の銀杏祭はハロウィンコラボとし、悪霊のコスプレを義務とするぞ!』



 思わぬ提案に、生徒の反応は3つに分かれた。

 テンションの高い陽キャ組。

 斜に構えてダルそうな陰キャ組。

 真面目に薬師寺先輩の話を聞く真面目組。



「へいへいへーい! なんだなんだっ? めちゃめちゃ楽しそーじゃんか!」

「ウチ、ガチガチのやつやりたい!」



 さすが陽キャ組の2人。一瞬で順応した。

 俺はどっちかっていうとダルい派なんだけどなぁ……。



『勿論、各クラスや部活で出し物はあるだろう。そこの衣装があるなら、それを着てもらって構わない。しかし、校内を歩く時は悪霊っぽいワンポイントは付けてもらうぞ。更に──』



 薬師寺先輩が考えている様々な催し物を発表すると、斜に構えている生徒達も徐々に興味を引かれていき。



『以上! 銀杏祭を楽しみにしてくれたまえ!』

「「「「イエーーーーーイ!!!!」」」」



 最終的には、生徒全員がノリノリになっていた。

 さすが女傑と呼ばれるだけあり、人の心を掴むのがうまいな。

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