第213話

 最終的に、梨蘭とひよりからあれもこれもとせがまれた結果。



「やらかしたな」

「あはは……取りすぎましたね」



 俺と朝彦の足元には、大量のぬいぐるみとお菓子が袋に入っていた。

 

 いやー、さすがにこんなに取れるとは思ってなかった。

 これも『運命の赤い糸』効果なんだろうな。


 朝彦とひよりは朱色の糸。

 俺と梨蘭は濃緋色の糸。


 どっちとも、経済的相性が抜群な色だ。

 恐らくだけど、これらをネットショッピングで売ったらそれなりの額になる。

 という意味では、経済的相性が抜群なのも頷ける。


 勿論、全部家に置かせてもらうけど。


 そんな俺達を煽った梨蘭とひよりは、満面の笑みで犬と猫のぬいぐるみを抱きしめていた。



「もふもふ♪」

「むにむに♪」



 本当、いい笑顔だ。見てるこっちが癒される。

 朝彦も大量に景品を取れたのが嬉しいのか、満足したようにお菓子を食べていた。



「ふー……いやーいいですね、リアルのクレーンゲームっていうのは。実際に取ってるって気分になります!」

「俺もオンラインクレーンゲームはやったことあるけど、やっぱリアルには勝てないよな」

「はい! ハマりそうです!」



 ハマらないであげて。朝彦がガチでやると、取りすぎて出禁くらうから。

 思わず苦笑いを浮かべ、朝彦の食べていたチョコお菓子を貰う。



「で、どうする? さすがにこの荷物を持って店をうろつくのも迷惑だぞ」

「そうですね……時間も時間ですし、そろそろ解散しますか?」



 時計を見ると、既に18時を回っていた。

 思ったより時間が過ぎてたのか。



「そうだな、帰るか。朝彦の家ってここから遠いのか?」

「電車で1時間半ほどでしょうか」

「えっ、マジ? 大丈夫か?」

「門限はないので大丈夫ですが……まあ、心配はされるでしょうね」



 朝彦は頬を掻いて、肩を竦める。

 だろうな。ちょっと前まで病弱だったのに、結構な時間を外で遊び回ってたんだ。

 もし俺の息子だったら、間違いなく心配する。


 それに朝彦もなんだかんだで色々買ってたし、ゲーセンの景品もある。

 それでなくても、今日は1日中歩き回ってたしな。疲れてるだろうし、ここから1人で帰すのも忍びない。


 どうするか悩んでいると、梨蘭が「それなら」と口を開いた。



「暁斗。家に来てもらうのは?」

「家に?」

「そう。それでご実家に連絡して、迎えに来てもらうのよ。どう?」



 うーん……確かにそれなら、途中で倒れられる心配はないか。



「うし、そうするか。朝彦もひよりもいいな?」

「おけー」

「い、いいんですか? お邪魔しちゃっても……」

「ああ。むしろその方が俺らも安心できるしな。せっかく楽しい1日だったんだ。最後の最後に倒れて、台無しになるなんて嫌だろ?」



 というか、俺らも夢見が悪いしな。

 遠足は帰るまでが遠足、遊びは最後まで楽しく、だからな。



「……本当にお優しいんですね、暁斗さんは。なら、お言葉に甘えさせて頂きます」



 朝彦はスマホで家に連絡を入れる。どうやら2時間くらいで来てくれるらしい。


 ひとまずの連絡を終え、俺達は家に向かっていった。



   ◆



 家に帰ってから夕食を取り、リビングでのんびりとくつろぐ。

 ひよりと朝彦はさすがに疲れたのか、2人揃ってソファーで眠っていた。



「むにゃむにゃ……」

「しゅぴー……」



 見事に爆睡してる。

 朝彦と一緒にゲームでもしようかと思ったけど、こんだけ気持ちよく寝てたら起こすのもな……。



「全くもう。遊んで食べて寝るって、子供じゃないんだから」

「それだけ楽しかったってことだろ」

「暁斗は色んな子を甘やかしすぎっ」



 とか言って、2人にブランケット掛けてやってるじゃん。



「暁斗は子供を甘やかすパパになりそうね」

「梨蘭はいいお母さんになると思う」

「当然よ。だって私だもの」



 むんっ、と自慢げに胸を張る梨蘭。

 が、直ぐにシュンとした顔になり、2人が完全に寝てるのを確認すると、俺の横に座って擦り寄ってきた。


 顔近い。上目遣い。潤んだ目。いい匂い。柔らかい。小さい。暖かい。


 色んな想いが一気に押し寄せて来た。



「でも子供もいいけど、私も甘やかして欲しいなぁ……なんて」

「ッ……当たり前だろ。梨蘭は俺の運命の人なんだしさ」



 思わず顔を背けてしまった。

 だってこんな顔で甘やかしてって言われたら、俺の理性とか鋼の意思とか色んなものがやばいですよ。マジで間違いが起きる。いや『運命の赤い糸』で結ばれてるから間違いではないけども。



「むっ。なんで顔逸らすのよー」

「ちょ、ばっ……うおっ!?」

「きゃっ!」



 梨蘭が迫ってきて仰け反ると、バランスを崩して押し倒されてしまった。

 念の為に言っておくと、俺が梨蘭を押し倒したんじゃないぞ。梨蘭が俺を押し倒したんだ。


 梨蘭の両手が俺の顔の横にある。

 胸がギリギリ当たらない程の距離。

 でもそのせいで深い谷間がこんにちはよろしくしている。


 まさかこんな体勢になるなんて思いもよらなかった。


 思わぬ体勢に固まる俺と梨蘭。

 互いの息遣いが大きく聞こえる。


 どうする。え、どうするよこれ。

 これはあれか。えっと……どうするんだよ、え? 何これ。何がどうしてどうなってどうするの?


 これはあれか? 俺から行った方がいいか? ついに一線を越えてユニバースでフォーエバーか?


 て、馬鹿か俺は! すぐ側にはひよりと朝彦もいるんだぞ!?



「梨蘭。そろそろ離れてくれると嬉しいんだが……」

「…………」

「り、梨蘭……? ぅっ……!?」



 そっと俺の頬に手が触れる。

 梨蘭の顔がゆっくりと近づいてくる。

 これ、は……えっ、嘘っ、やば──。






 ピンポーン。






「「ッ!?」」



 バッ──!


 急なチャイムに急いで離れる。

 あ、危なかった……マジで危なかった。

 梨蘭も真っ赤な顔で呆然としている。俺も似たようなもんだろう。


 と、再度チャイムが鳴った。



「ぁ……は、はいっ!」



 急いで立ち上がり、玄関に向かう。

 もしあの時チャイムが無かったら、今頃……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る