第212話
とりあえず朝彦を先頭に、ゲーセン内を練り歩くことに。
朝彦にとっては宝の山みたいで、あっちを見てもこっちを見ても目を輝かせている。
「本当にゲームが好きなんだな」
「はい! アーケード版から移植されたゲームは、ほとんどクリアしました!」
家庭用に移植されたゲームって、一体いくつあると思ってんだ。さすがジョーテラの御曹司。金持ちすぎる。
店内は手前がクレーンゲームコーナー、奥に進むと右側が音ゲーコーナーで、左側がアーケードゲームコーナーになっている。
エスカレーターを登ればクレーンゲームコーナー。
受付を通り、エレベーターで上がれば3階がカラオケとボウリング、4階がダーツとビリヤード、5階がバッティングセンターだ。
多分、駅中にあるゲーセンの中では1番でかいんじゃないだろうか。
「あ、暁斗っ。すごい、すごいわっ! すっごく大きい……! 大きすぎてドキドキしちゃう……!」
余りのデカさに、朝彦だけじゃなく梨蘭もちょっと興奮気味だ。
別に他意がないのはわかってるけど、言い方に俺がドキドキしてしまったのは内緒だ。
「あ、朝彦。どれからやる?」
「…………」
「……朝彦?」
「……僕は、天国に来てしまったのですね」
「死んでねーわ。あと付き添ってる俺らも勝手に殺すな」
天国がゲーセンとか嫌すぎる。
「それでどうする? 朝彦が決めていいぞ」
「そ、そうですね……なら、最初はクレーンゲームがやりたいです! オンラインでしかやったことないですし!」
「お、おう」
今どき、クレーンゲームはオンラインでもできるが……そんな自信満々に言われるとちょっと悲しくなるな。
ひよりが朝彦を連れてクレーンゲームコーナーに向かう。
と、梨蘭が俺の袖を引っ張ってきた。
「ねえ暁斗。くれーんげーむって何?」
「えっと……簡単に言えば、アームを動かして人形やカバン、フィギュアとかと景品を取るゲームだ」
「????」
首をこてんと傾げる梨蘭可愛い。
「実際に見せた方が早いか……よし、行くぞ」
「え、ええ」
梨蘭と手を繋ぎ、ひよりと朝彦の後について行く。
既に2人は3本アームのクレーンゲームで、巨大な猫ぬいぐるみに挑戦していた。
「むむむむむっ」
「がんばれっ、がんばれアサたんっ」
アームが上手く猫の隙間と頭を掴む。
が、掛かりが甘くするりと落ちてしまった。
「惜しいわね」
「ま、確率機なんてそんなもんだ」
「確率機?」
「確率でアームの掴む強さが変わるんだ。だからああやって隙間にアームを入れたりして、少しでも取れるよう工夫してるんだよ」
「それって、下手くそだったらいつまでも取れないんじゃ……?」
「察しがいいな。上手くいったら数百円で取れるが、下手だったら1万円掛けても取れないぞ」
俺も、トータルで10万円くらい吸い込まれていったな……ダメだ、考えないようにしよう。
「不思議ね。なんで1万円も掛けるの? この人形、調べたけど3000円で買えるわよ?」
「ぐはっ!?」
「リラたんサイテー!」
「梨蘭、その現実は余りに多くの人を傷つけるからやめなさい」
「ご、ごめんなさい……?」
全く。これだからゲーセンの楽しさを知らない若者は。
いや俺も若者だけど。
「確かに金を払えば簡単に手に入る。でもお前は、金で手に入る栄光を誇らしいと思うか?」
「え、何? なんで急にそんな壮大な話に?」
「栄光というのは、困難な道を乗り越えてこそ誇らしいものとなる。だから3000円で手に入るとか、そんな現実を突きつけてはいけないんだ。わかるな?」
「わからないわ」
まさかの一刀両断だった。
と、そこにひよりが「やれやれー」と首を横に振った。
「リラたん、わかってないなー」
「何よ、ひより」
「見てみなよアサたんを」
ひよりに言われて朝彦を見る。
猫のぬいぐるみとアームを見つめる朝彦の横顔は、真剣そのものだ。
「アサたんは、ひよりが欲しいって言ったから真剣に取ろうとしてくれてるのー。つまり、ひよりの為に頑張ってくれてるんだよー」
「ま、まさかっ……?」
「そうー。……サナたんがリラたんの為に頑張ってるところ、見たくないー?」
「見たい!」
さすがひより。梨蘭の扱い方を心得ている。
「暁斗、暁斗っ。私、犬のぬいぐるみ欲しいわ!」
「はいはい。お姫様の仰せのままに」
朝彦の隣の台に立ち、100円を入れる。
そんな様子を見ていた朝彦は、苦笑いを浮かべた。
「ふふ。お互い、お姫様のために頑張りましょうか」
「だな」
梨蘭のことだから、これだけじゃなくて色んなものをせがんで来そうだけど。
そんな所も愛おしく思える。可愛いやつだ、本当に。
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